有料読書会、その1-0. アラン・ヤング著 中井久夫、他 訳 『PTSDの医療人類学』 みすず書房

基本的には、私の読書感想文です。
自分が飽きるまで、シリーズで続ける予定です。
テーマとしては精神科医療を考えております。精神疾患の療養に役立つような内容も盛り込みたいと思いますので、申し訳ありませんが有料と致します。

現時点で、コメント欄は開いておりません(見ません、返答しません。)
様子を見ながら、追ってコメントも書き込めるようにしたいと思います。

まずは私がずっと以前に読んで、メチャクチャ面白いと思った本書から。
読書会ということで、少しずつに区切って読み進めながら、記事を書いていこうと思います。

今回は本書の私なりのご紹介を、覚えている範囲で書きます(ので、記憶に間違いがあったら御免なさい)。
内容は、ベトナム戦争に従軍した人たちが帰還してから精神の変調に見舞われ、精神科医療を受ける様を、医療人類学者である著者が見聞きして考えたものだ。

兵士として戦争に行った人が、恐ろしい体験をする。
戦争とはつまり殺し合いだから、戦争相手の兵士を殺し、戦地に住む人を殺す。自分の手を汚すこともあれば、その光景を間近に見ることもある。
戦友が負傷したり、殺されるのを見ることもあるだろう。
自分が負傷したり、死にそうな目に遭うことだってあるだろう。

従軍を解かれ、故国アメリカに戻ってからも、その記憶が自分を苦しめる。
恐ろしい光景が急に浮かんできたり、それを体験したときのようにパニック状態になって動悸発汗その他が急に起こったり‥家にいても、街を歩いていても、仕事しているときだって、いつそうなるか分からない。
落ち着いて生活できなかったり、仕事できなかったりして、困って医療機関を受診する。
入院治療になることもある。
本書の場合は退役軍人用の治療施設で、著者はそこでの入院治療を調査した。

そのような内容を読んでいきながら、自分が注目したのはPTSDの病態と治療、本書に出てくる精神分析という治療、そして精神科医療一般だ。

まずPTSD。そもそも精神疾患は、どうやってなるのか、原因というか要因というか、そういうものは殆ど解明されていない。
私の普段の仕事では、こうやって具合悪くなりましたという一人一人の物語がされる訳で、「これこれが原因で病気になりました」と言われることも多い。
だけど自分の習った範囲では、これこれが原因の精神疾患というものはない。
その中でPTSDは何かが原因というより、「トラウマ」に引き続いて起こる精神疾患という独自の立ち位置にある。
あれ?、何かが原因で起こった精神疾患はないという前提で診療していたら、ハッキリそうとは言えないながら、何かが微妙に発症に関与している精神疾患もあった訳で、そうすると他の精神疾患についても「何か」をもっと積極的に考えながら診ていかないといけなくなる‥。

精神分析には私は全然、馴染みがない。医学部時代に聞いたこともないし、卒業して精神科医になってからの教育で触れたということも全くない。
どちらかいうと、怪しいという、漠然としたイメージしかない。
本書では退役軍人用の治療施設で、精神分析(的治療)の施されている様子が描かれる。
ちょっとカリカチュアされて。
爆笑して涙を拭きながら‥精神分析って3歳までの母子関係とかを重要視するんじゃないのかな?、それに成人してからの過酷な体験の影響が合わさった病態を治療するって、どんな風にやるのか・可能なのか‥アタマの中に疑問が渦巻きながら読んでいった。

幼少期の体験が1、そして従軍先での過酷な体験を2とすると、実はもう一つ考えに入れないといけない体験がある。
その3つめが、精神科医療、特に入院治療だ。
‥精神科医療について、というか医療ってものは、これを言っちゃお終いかも知れないけど、ポジティブサムでなく、ゼロサムだよなーって、つくづく思う。
つまりセレブ相手の美容整形治療とかの自費医療でもない限り、医療に投入される総額は決まっている。
日本の(公的)保険医療とか、アメリカの退役軍人のための医療は、予算がとっても限られている(と思う)。
その中で、高額な機器を使って精密検査したり、これまた高額な機器を使った治療をすれば、医療費をだいぶつかう。
予算の総額は増えないとすれば、残りは当然少なくなる。
精神科医療では高額な機器ってあんまりないし、他科でつかった予算の残りが回ってくるのだけど、そこから人件費にあてる余地は少ない。
スタッフをたくさん雇うカネはない訳だ。

‥ところが精神科医療って手がかかるのだ。
自分の身を守る、自分の持ち物を守る、自分の理性を守ることの出来ない状態だけど、身体はピンピンしている。
そういう人たちが病棟で何ヶ月も集団生活をするってこともあり得る訳だ。
持ち物の紛失、夜這い、暴力沙汰、その他いろいろ不祥事があっては困るので、スタッフが見守らないといけない。
ところがスタッフが充分いないときにどうするかって、こういう場合はおそらくドコの世界でも同じと思うが、こと細かに規則を決めて統制するのだ。
カネ目の物、紐、刃物はもちろん、オヤツから煙草まで病棟預かりだったり。
ケータイもいろんな理由でダメかも。
あと皆がバラバラの時間に、バラバラの場所で生活していたら見守りきれないので、日課に沿って同じ時間に同じ場所で一斉に行動してくれないと困る。

‥それだけじゃない。統制って、やる方には癖になるしなあ。
治療と勘違いすることも、ありうるしなあ。

精神状態の良くないときに、いつもと違う場所で寝起きして、行動を統制されるって相当のストレスで、心身に影響が出ることも当然ありうる。
これら3つの影響が組み合わさったものを、どう分析し、治療するかって、とっても難しい。
本書では、そこら辺がどうなっているか、もはや入院医療は私には縁がなくなったけど、精神疾患の病態と治療を考える上では興味深い。

ということで、ちょっとずつ読んでいこうと思います。
宜しくお願いします。

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