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深世海雑記


はじめに

 本文は深世海作中における初期ステージ「故郷」と透過式幕画(作中で閲覧できる画像資料)等を読み解き、そのプレイ中に体感した衝撃を取り急ぎ書き殴った産物である。如何せんこのゲームはメインシナリオをテキストで丁寧に説明するような代物ではない。そのため本文は作中に散りばめられた表現描写や生物図鑑の説明から深掘りしていき、作中スクリーンショットに適宜解説を添えた画像を参考にしながら話を進めていく。それに伴い、読み進めていくうえで作中核心部分のネタバレ回避が不可能に近いことを理解してもらいたい。また、もし貴方が本作をなんとなく持て余して未プレイで積んだままにしているようであれば、本文を読む前にエンディングパートまで進めることを強く推奨する。


深世海とは

 まず「深世海」という作品についてざっくりとした説明を述べておく。「深世海 Into the Depth」とはCAPCOMが開発・発売したサイドビューアクションゲームである。舞台は地表が氷に覆われた世界。人々は凍りついた地上を捨て海中で暮らすことを余儀なくされた。長い年月が経った現在、一人生き残った主人公の潜海者は迫りくる氷から海へ逃れるうちに未知の機械と出会い、より深層の「世海」へ旅立つことになる……といった感じである。詳しい説明や本作の雰囲気をもっと味わいたいと思った方は一度公式サイトを訪れるのもおすすめだ。こだわりの音響が気になった方は是非とも購入して遊んでみてほしい。
 繰り返すがこれより先は作中資料の画像を用いた考察が主となるため、ネタバレてんこ盛りの内容になることを留意してもらいたい。また、本作に度々登場する漢字っぽくて読めそうで読めない文字(白舟印相体に酷似しているがアルファベット等はオリジナルフォント)は解読出来たものだけをその都度補足していく。ちなみに深世海ゲームクレジットには株式会社白舟書体の名前が載っている。

 前置きはこれくらいにして早速本題へ取り掛かる。


誰の故郷?

 やはり作中世界観を直接的に教えてくれるのは、冒頭でも述べた透過式幕画という代物だろう。これらは世界観を考察するうえで何よりも重要な手がかりとなる。透過式幕画とは作中で閲覧可能な記録媒体のようなもので、スライド形式の画像数枚から構成される資料として各ステージに点在している。本作ストーリーは台詞や語り部といったものが全く存在せず、言語でまともに示してくれるのは操作チュートリアルと各チャプター表示、そしてこの透過式幕画ぐらいである。

画像.1 中央のディスプレイを訝しげに眺める主人公 

 主人公である潜海者は画像.1の反応からして透過式幕画のディスプレイ(便宜上そう呼称する)に触れた経験がなかったようだ。透過式幕画という名称は表記されていた画像.2のような文字を印相体と見比べながら解読した。作中通して明示されることはないが理解に支障はないため、以降はこれらの言語をそのまま漢字表記に当て嵌めていくとする。

画像.2 作中表記文字を明るさ補正したもの
透過式幕画と読める

 ここで作中の時系列を大まかに推定すると、

地表の凍結が始まり人々は海中へと追いやられる。人々はみな潜海者となる。

人々が海中に文明を築く。海底文明の黎明期。文明の影響が海中に広く伝わる。反応炉(特殊なエネルギー資源)によって豊かな海中生活が齎される。

海底文明で思想分裂が起こる。一方の派閥は離反後に反応炉と共に浅海へ旅立ち、もう一方の派閥は海底に留まる。同時に前者派閥によって後者派閥は海底の扉奥へ封印される。(以降は浅海派、海底派と表記)

海底派による機械生物の運用が始まる。目的は資源調達及び反応炉の奪還。浅海派にとっては未知との遭遇になる。
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長い年月を経て凍結が「故郷」にまで到達する。本編の始まり。

 細かい部分で異論が生じることもあるだろうが、考えられる時系列の叩き台としてひとまず提示しておきたい。前提として海底文明の盛衰がゲーム開始時点よりも過去の出来事だと断定し話を進めていく。ちなみに作中の随所で現代日本人に馴染み深い地上の遺物が描写されることもある。ここでは本筋に関わらないため画像を省くが、興味があれば是非自身の目で確かめてほしい。
 上記時系列と各透過式幕画(以降は幕画と略す)を紐付けていくことで、主人公がいわゆる「浅海派」の子孫であることが導かれる。海底文明人の分裂の様子を示す幕画の画像.3と画像.4を見てもらいたい。

画像.3 海底文明の思想分裂を示した幕画
画像.4 海底文明の扉を閉ざし反応炉を持ち去る様子を描いた幕画 

 目を引く異様な様子は後述する思想分裂の主要因でもある。とりあえずここでは海底を去る潜海者の装備のデザインに注目する。潜水装備の開発系譜図を示す幕画(画像.5)を見た限りでは、主人公と同じ見た目の極地型改(最も左の装備)とその前身であろう極地型(左から2番目の装備)を装備した潜海者達が離反し浅海派へ転身したことが読み取れる。

画像.5 潜水装備開発系譜図と表記された幕画

 つまるところ、作中の幕画に描かれる潜海者達の装備からその派閥と時系列をある程度類推できるのだ。とはいえ分裂を境にして両者の装備に大きな変化が生じた訳でもないため、ここでは「類推」という表現に留めておく。
 プレイヤーである主人公の潜水装備は先述した通り極地型改に分類されるだろう。また、ストーリー中の主人公のリアクションや初期の耐圧性能(100m以下の水圧に耐えきれない程度の性能)からして、海底文明の潜水技術の大部分は主人公に伝わっていないようだ。作中ムービーにおいても、主人公は海底文明の遺したアンモナイト型の住居や幕画ディスプレイに新鮮な反応を見せている。耐圧性能に乏しく活動範囲(画像.6の赤線以上の範囲)が限られていた本編開始時の状況を踏まえると、このステージの広い範囲を「故郷」と銘打つには些か大雑把な括り方とも言えるか。

画像.6 「故郷」の全体図
赤線より下へ潜るには耐圧性能の強化が必要

 また、公式Xにて主人公である潜海者が巨大なオブジェへ資源調達の度に参っていたことも明かされている。

 これも作中で明言されてはいないが、意匠の特徴(画像.7に見られるような特有のデザインと発光)やかつての文明の影響力を考えると、このオブジェは海底文明の遺物と捉えるのが自然だろう。しかし海底文明から離れた浅海派にはその技術継承が途絶えて久しいらしく、深層の遺物に対する認識は長い時を経て形を変えたようだった。

画像.7 海底文明の電線分岐部分らしきもの
特有の発光は海底文明の遺物によく見られる

 要するに、「故郷」は海底文明の名残が色濃く残るステージであり、尚且つ主人公と海底文明との間には時間的・文化的な隔たりがあるので、「故郷」=主人公の故郷(Home)と結びつけるのも少し違和感が残る訳だ。

 ……とはいえ、公式プレイ動画説明では潜海者が故郷を追われ旅立つことが明記されている。深読みし過ぎてありもしない星座を見出すよりも、作中描写を素直に受け取ることが健全な遊び方だと言えるだろう。筆者にステージ名の訂正を求めるような強い主張もない。ここで気になったのはネーミングの是非ではなく真意の方だ。故郷と銘打つに相応しい理由が何か存在するのだろうか?


「旅の終わり」

 前文で横に置いた画像.3の様子と、そこから生じた海底文明の分裂について触れていく。これらの情報は作中終盤から畳み掛けるように明かされたため、飲み込むまで時間を要したプレイヤーもいた事だろう。筆者もその一人である。

 海底文明に生じたとある問題とその解決策は他に類を見ない代物だった。幕画と共に状況を振り返ってみよう。画像.8は封印された海底文明内に設置された幕画の一つだ。海底文明の潜海者達はこれまで右肩下がりに数を減らしており、いずれ迎える限界を予期していたようである。

画像.8 海底文明の潜海者数減少を示す幕画
限界および減少傾向といった単語が記されている

 続けて次の幕画(画像.9)へスライドを進めると潜海者達を襲ったもう一つの危機が記されていた。これは海底火山以深の地中に生息する厄介な原生生物━━古生細菌である。幕画では中央一帯を覆う粘菌のようなものとして描かれている。実際プレイ中に相対する古生細菌は幕画と同様に潜海者を粘体へ引き込むと、そのまま継続的なダメージを与えてくる。特殊な武装を用いなければ無力化不可能でありながら、限られたコロニー内から潜海者を飲み込もうと粘体を伸ばしてくる恐怖の人喰いスライムだ。本当にストレスでしかないのに再生力に長けた無敵型までいるためステージから駆逐することもできない。海底文明が手を焼いたのも素直にうなずける圧倒的脅威だ。

画像.9 古生細菌に取り込まれる潜海者達が描かれた幕画
右側に描かれたナニカは細菌の影響を受けていない

 ここで画像.9の右側に描かれたものに対して焦点を当てていく。これは作中ムービーにて古生細菌を退けた謎の生物とよく似ている。ストーリーの終盤にて、主人公達は最深部の隔壁を開き封印された海底文明の謎を全て解き明かした。その際海底文明内に突然現れたこの生物は古生細菌の封じ込めに大きく貢献した。その正体は幕画と生物図鑑、そしてあのエンディングが丁寧に伝えてくれる。

画像.10 謎生物について記された幕画
画像.11 エンディング後に追加された生物の図鑑説明
生物図鑑はタイトル画面から確認できる

 正直なところ、エンディングと併せて画像.10と画像.11を見てもらえばこの部分に言葉を尽くす必要もないかと思われる。

 海底派は人ならざる可能性を受け入れた。浅海派は受け入れなかった。そういうことだったのだろう。

 圓は人類の深海生活適応のために研究されたその成果物とされており、生物図鑑には機械生物としてカテゴリ分けされている。作中では他に多数の機械生物が確認できるため、海底文明が圓という存在を1からデザインしていてもなんら不思議ではない。

 ではなぜ忌避される見た目を選んだのか?

 なぜ海底派は圓を受け入れたのか?

 謎は増えるばかりである。最後に幕画のバツ印で示されていたとある場所で見つけたものと、図鑑の英語表記からステージ名「故郷」の真意について筆者なりの回答を示しておく。しかしこれはあくまで筆者の個人的な解釈に過ぎないため、直接的な言及は控えておこう。


画像.12 英語表記の図鑑説明
画像.13 故郷最深部にて


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