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短編小説 『魔法のガラスペン』

(603文字)

 私がそのガラスペンを見つけたのは文房具屋ではなく本屋だった。
 インクとセットになったガラスペンで、カラーはサクラピンク・ヒマワリイエロー・キンモクセイオレンジ・アネモネパープルの四種類。
四季をイメージしたカラーのようだった。
偶然見かけただけだったけど、そのガラスペンは私の心をギュッと鷲掴みにした。
 ひとつ手にとってみる。
やはりガラスだけあって手のひらに、わずかな重みを感じる。 
ペン先はスパイラルになっていて、持ち手は中央より下部分に持ちやすいようくぼみがつけてある。
持ち上げて店内の照明にかざしてみると、明かりに照らされたガラスペンがキラキラ宝石のように光り輝いた。

――素敵。

気がついたときにはすでに心はガラスペンの魔力の虜になっていた。
だってこんなキレイなもの一度手に取ってしまったら最後手放して帰れるわけがない。
 お財布の中身を確かめてみる。
幸い手に取りやすいお値段だった為、手持ちで事足りる。

――よし。

私は今、秋のこの季節にガラスペンと出会えたことを記念して、キンモクセイオレンジに決めた。
インクも見本を見るとガラスペンとほぼ同じ色合いらしい。
 レジでお会計を済ませている間、せっかくだし紙にもこだわってみようと文房具屋さんにも寄ってみることにした。

――さぁ、帰ったら何を書こうか。

文字だけじゃなくてイラストもいいかもしれない。本屋を後にすると、私はウキウキと足を弾ませながら次の目的地へと向かった。

             おわり

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