- 運営しているクリエイター
#小説
黒髪儀礼秘話 ー第一話 私立M女子高等学園卓球部入部秘話ー
ー一ー
この春横川侑子は滑り止めに受けた私立M女子高等学園に通うことになった。
「また女子校か……」
六年連続女子校通い確定の侑子に六年連続ブレザーというおまけがついた。侑子は深いため息をついてとぼとぼと校舎へ向かう。
侑子にとって唯一の不幸中の幸いは私立の女子校に通えることぐらいだ。もし公立高校に通うことになると、侑子は長い髪をおかっぱにしなければならない。
「M女子の校則は下敷き
黒髪儀礼秘話 ー第二話 R高校野球部男女対抗戦秘話ー
見よ、わたしはすぐに来る。報いを携えてきて、それぞれのしわざに応じて報いよう
ヨハネの黙示録二十二章十二節
ー一ー
R高校女子寮から公園まで往復約三キロ半のランニングを終えると、美樹はゆっくりと乱れた呼吸を整え柔軟体操にとりかかる。
入念に体をほぐし終えると、美樹は頭の上で団子状にきつく結い上げた髪をほどいた。
背中を隠すほどの癖の無い真っ直ぐな黒髪がバサリと美樹の
黒髪儀礼秘話 ー第三話 L女子中学入学前夜ー
ー一ー
あれほど降った雪はどこへ消えてしまったのだろう……
佳奈は通学路にすっかりと泥にまみれ小さくなった雪の固まりを見て小さく首をかしげた。
ついこの前までは天気予報のおじさんがいかにも心配げな顔で「今年は例年にない大雪で……」という言葉をあんなに繰り返していたのに、今では明るい表情で「各地の桜の見頃」を予想している。
そういえば小学校に通うのもあと一ヶ月足らずだっけ……。裕子ちゃ
黒髪儀礼秘話ー第四話 宝物ー
ー1ー
長くてひたすら暑かった夏休みが終わり、中学生最後の学校が今日からまた始まる。
「――暑い……!」
九月の初旬だというのにちっとも涼しくならない。私は頬にかかる長い髪をパサリと払いのけ、校門まで続く急な坂道を上る。そのたびに背中が隠れるほどの黒髪がバサリと揺れる。つい先ほどまで大活躍していた私のお気に入りの自転車は、この坂道ではお荷物さんでしかない。おまけに衣更えでお気に入りのセー
黒髪儀礼秘話 ー第五話 さよならポニーテール ー
ー泉美<1>ー
ようやく春風が囁き始めると、弧を描くかのようにポニーテールがさらりと揺れる。そのたびに散り始めた桜の葉が、私のポニーテールと一緒に春風にのって遊泳する。
通り過ぎた男の人たちがあからさまにこちらに振り向く。
「ウフフ……見てる、見てる」
小学校の頃まではジロジロ見られているようでいやだった。でも……
「それはね泉美、泉美のポニーテールがあんまりきれいだからよ。だから泉美
黒髪儀礼秘話ー第六話黒髪儀礼ー
ー1ー
美穂はその日大決心をした。
男子のみならず女子からも憧れの的となっている腰まで届かんばかりのつややかで真っ直ぐな黒髪、その自慢の髪を今日バッサリ切ることにしたのだ。
ふいに乾いたノックの音が二、三回美穂の部屋に響く。
「美穂……。支度はできたの?」
加奈子が扉を開くと、真っ先に白装束を身に纏った美穂の姿が目に飛び込んだ。
おろしたての眩しいばかりの白装束とそれを飾るかのよう
黒髪儀礼秘話外伝 ー罰の章ー
朔:陰暦の月の第一日。ついたち。月と太陽とが同じ方向にあって、地球に対して月の暗い面を向ける。
岩波国語辞典第六版より引用
―― -159
黒髪の禊を忘れてはいけないよ。
誰も見ていないように見えるけれど祠の神様は見ているからね……
真理はがばりと跳ね起きる。もう初冬も過ぎたというのに、真理はじっとりと寝汗をかいていた。
手がかろうじて届く高さに置かれた目覚まし時計は午前4時を指して