202311
先月10月に無事転職し、今月から新たな現場で働くことに。毎日出社して勤務しているわけですが、通退勤時間を使っての読書時間が確保できているおかげか、読書が捗っています。というわけで、今後は毎月月末に近況報告と印象に残った本のレビューを兼ねた記事を書いてみようかな、と思った次第です。せっかくnoteを利用しているので有効活用してみたいし。
今後書く予定の記事にも言えることだけど、小説のレビューの場合は内容に触れるのでネタバレ要注意。
武田綾乃『可哀想な蠅』新潮社、2023
『響け!ユーフォニアム』以来のぼくの推し作家の最新作。武田綾乃としてはなんともブラックな4編からなる短編集。4編を通じて描かれているのは、相互理解よりも相互不理解の方なのかもしれない。
「可哀想な蠅」
Twitterにバズ狙いでショッキングな動画を投稿、暴言混じりのクソリプ、そして友人を襲う突然の惨劇。ラストがなんとも救われない。
「まりこさん」
無邪気にわかり合える「大人と子供はわかり合えるけど、大人同士がわかり合うのは難しい」という言葉が重い。人は歳を重ねることで、多くのものを抱えるようになるが、それによって難しくなることがあまりにも多い。
「重ね着」
地元・京都に留まって現状維持の生活を旨とする姉と、東京に出て仕事や結婚を見据えた生活に前のめり気味の姉妹関係を描く。少し『ユーフォ』の黄前姉妹を彷彿とさせる。4編の中では明るめの読後感。
「束縛」
互いに異性の恋人と別れることになった女同士が同棲するという流れがなんとも作者らしい。
逢坂冬馬『歌われなかった海賊へ』早川書房、2023
『同志少女よ、敵を撃て』で名を馳せた作家による歴史青春小説にして、現時点で今年のマイベスト小説。来月読む予定の小説は少なくなりそうなので、おそらく本作が今年のマイベスト小説になるだろう。
老人フランツ・アランベルガーがナチ体制へのレジスタンス活動を行う「エーデルヴァイス海賊団」が外国人を強制労働させる強制収容所で行ったことを振り返って語るという形式の小説。
本作はなんと言っても人間が持つ二面性を浮き彫りにする描写が秀逸だった。ヴェルナーたちと接したことで純粋培養されたヒトラー・ユーゲントから人権擁護に理解のある児童作家・篤志家になったフランツ・アランベルガーや、善良な人物だが保身などの理由で体制に迎合してしまう「普通の人びと」の一人であるアマーリエ・ホルンガッハーはその典型だ。少しとはいえ、ヴェルナーたちの活動で収容される人を減らしたことで救われる命があったという展開も印象深い。
前作『同志少女〜』が独ソ戦においてで過酷という言葉でも足りないような筆舌に尽くし難い状況に身を置き、人格と尊厳を蹂躙されることを余儀なくされた女性たちのインタビューを基にした『戦場は女の顔をしていない』を踏まえていたように、全体的に今年刊行されて話題になった『ナチスは「良いこと」もしたのか?』(ぼくも読んだよ!)を踏まえた小説なのかな、と朧気ながら思っていたが、後書きにて本作の監修を務めたのが同著の著者である田野大輔氏だったことが明かされる。ここでも繋がりがあることに感心。
逢坂冬馬という作家の新作が今からでも待ち遠しい。