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「損をして得を取る」ということ

「損をして得を取る」という言葉がある。「一時的に損をしても、長い目で見れば大きな利益が返ってくる」という意味で、マーケティングにおいて重要な戦略となる。

たとえば化粧品なら、無料サンプルを配ったり、お試し価格で商品を提供したりすることが当てはまる。初めてのお客様に1週間の無料お試しセットを提供している化粧品会社のCMは有名だ。


私も消費者の立場から「損をして得を取る」の好例を学んだ経験がある。

あるドラッグストアへ低刺激化粧品を買いに行った時のこと。商品をレジへ持って行くと、店員さんが新商品の化粧品サンプルをくれた。

サンプルは敏感肌向けに開発された新ブランドの化粧品で、私のように低刺激化粧品を購入した人に配っているとのこと。

なるほど、ターゲットを絞ることで無駄をなくしているようだ。

店員さんは新商品の成分などを丁寧に説明して下さり、とても分かりやすかった。おそらく薬機法もご存知と見られ、効能効果のNGワードは使わずに、適切な表現を用いて説明しているところも好感が持てた。

敏感肌の私にとって、初めての化粧品をサンプルで試せるのはとてもありがたいこと。店員さんの説明で商品に興味を持ち、早速サンプルを使ってみたところ、自分の肌には合いそうだと分かった。次回、買い物に行ったらこの商品を買おうと決める。

店員さんが手間を惜しまずに説明してくれたこともうれしく、お店や商品の好感度も一気に上がった。私が言うのもおこがましいけれど、このドラッグストアは理想的なマーケティング戦略をなさっていると思う。

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ところで私は学生の頃、スーパーマーケットやデパートなどで試食販売をする売り子のアルバイトをしていた。試食販売も「損をして得を取る」ためのマーケティング戦略といえる。

商品を試食して気に入ったお客様は、その場で買ってくれることも多い。もちろんすべてのお客様が購入するわけではない。試食の後「また後で買いに来るわね」と言って立ち去りながら、実際には戻ってこないお客様も多く、当時はガックリしていたものだ。

しかし、その日のうちに買わなくても、数日後、数か月後の購入につながる可能性はある、と今なら思う。

試食販売の仕事は重労働だった。大抵は土日の2日間で、10時から18時くらいまで、1時間のお昼休憩を挟みながらひたすらお客様に試食や試飲を勧める。立ち仕事で声を張るため、非常に疲れるのだが、お客様の反応を直に見られるのは楽しかった。

もっとも印象に残っている仕事は、某メーカーのワインを試飲販売し、2日間で完売した時のこと。私の経験上、試食・試飲販売で商品が完売することはほとんどなく、大抵は在庫が残る。だからこそ、この時の達成感は今でも鮮明に覚えている。

時刻は夕方16時過ぎ。2日間ワインを売り続けてクタクタだった私は、ついにワインを完売し「やった!これで今すぐ帰れる!」と諸手を挙げて喜んだ。しかし、すかさず社員の方から「では次に当社のオリジナルワインを売って下さい」と依頼を受け、社会の厳しさを思い知ることとなる。

ワイン売り場には、速攻で帰るつもりだった私を嘲笑うかのように、大量の”オリジナルワイン”とやらが鎮座している。罪のないワインたちが小憎らしく思えたが、これもまた貴重な経験と言うべきか。

ちなみに試食販売の仕事では、毎回レポートの提出もしていた。販売個数だけでなく、試食したお客様から伺った感想や意見を書く欄もあった。こうしたお客様の生の声も、メーカーのマーケティング戦略に生かされていたはずだ。


ライターであれ、販売員であれ、自分の仕事にはどんな意味や目的があるのか、マーケティング戦略を理解することで、より奥が深く、面白いものになる。学生の頃の自分にも伝えたい。

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