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祖母が教えてくれた僕の好きなこと。

 社会人1年目のはじめての冬のボーナスで買ったレッドウィングのブーツは今年で5年目になる。ほぼ毎日そのブーツを履いているが、どんどん色合いが良くなっている。履くたびに靴紐を結び直す必要があるため、周りからは何でそんな面倒臭い靴履いているのかと言われたり、靴を履くために人を待たせたり、時間がかかって電車逃したこともある。それでも履き続けている。「好きだから」ただそれだけだ。

 履く時に紐を結びキュッと締めると、心も引き締まり「よし!行こうか」と靴が自分に言っているような感覚がする。それが一番好きだ。

 学校では教えてくれないこと、家庭から学ぶことは多いけれど、その紐の結び方、蝶々結びを教えてくれたのは祖母だった。そんな祖母は今認知症を発症し、久しぶりに帰省すると僕の顔をみて「あんたはどっちだったかな?」と他の兄弟達と見分けがつかなくなってきている。僕であることを伝えても僕の記憶は大学生のままで止まっているようだった。

 あれは小学校3年、僕が少年野球をやり始めてスパイクを買ってもらったときだ。今まで輪っかを二つ作ってそれを結ぶ簡易版蝶々結びしか出来なかった僕にゆっくりと何度も蝶々結びを教えてくれた。何度も結んでは解きをやってみせてくれた。その時のことを今でも鮮明に覚えている。

 祖母は僕に蝶々結びを結んでくれたあの時のことを覚えているだろうか、認知症患者は発症前の記憶は健常者と同じように覚えていることが多いらしい。聞きはしないが覚えていてほしいなと思う。

 僕は今日も祖母から教わった蝶々結びで靴の紐をキュッと締め、「よし!行こうか!」と新しい1日への扉を開く。


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