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感動せずにはいられなかった

「ピ、ピ、ピー、試合終了のホイッスルです」

実況アナウンサーが言った。

第99回全国高校サッカー選手権決勝。青森県代表青森山田高校、山梨県代表山梨学院高校。最後のホイッスルが、2021年1月11日、埼玉スタジアム2002、無観客のピッチの上で鳴り響いた。

これまで圧倒的な攻撃力で勝ち抜いてきた青森山田高校。言わずと知れたサッカーの名門校。3年生の藤原優大、安斎颯馬、内間隼介、仙石大弥、内田陽介。2年生の藤森颯太、名須川真光、松木玖生。

ペナルティエリア内では粘り強い鉄壁の守備で勝ち進んできた山梨学院高校。3年生の熊倉匠、一瀬大寿、鈴木剛、飯弘壱大、中根悠衣、浦田拓実、新井爽太、山口丈善、笹沼航紀、野田武瑠、久保壮輝、広澤灯喜。

素晴らしい選手たちとそのプレーを見せてもらった。

もうどのくらい見続けているのだろうか。サッカーに本格的にはまり出した頃からだ。かれこれ18年くらいになるだろうか。そもそもサッカーは好きだが、プレーは下手くそ。でも、テレビでは毎年欠かさずに見ていたのが高校サッカー選手権だ。地元山口県は高川学園か西京高校がほとんど選手権に出場していた。今年も高川学園が埼玉県代表の昌平高校を相手に善戦したいた。非常にいい試合だったように思う。

そして、なにより今日の決勝戦。何度も言うようだが、本当に素晴らしい試合だった。かつては中学生時代ともに東京都にあるFC東京の下部組織、FC東京U-15深川に所属していた選手たちが奇しくも高校サッカーの最後の舞台で同じピッチに立ち闘ったのだ。山梨学院高校のGK飯倉匠、MF笹沼航紀、青森山田高校の安斎颯馬。もはや素晴らしい舞台で再会を果たしたとしか言えない。

解説でも言われていたが、飯倉匠選手のGKとして判断やセービングは言うまでもない。安斎颯馬選手の決定力やゴールへの貪欲さというか嗅覚みたいのは、どことなく元日本代表の佐藤寿人選手の得意なニアからのシュートスタイルに似ている感じがした。そして、個人的には途中からの出場にはなったが、山梨学院高校の笹沼航紀選手。179㎝、64㎏と身長の割には見た目もそうだがかなり細目の選手。そして、左利きつまりレフティーの選手である。個人的に昔から細身でレフティーの選手のボールの持ち方、キックモーション、ドリブルの間合いは何故か好きだった。細くて飄々としており、接触プレーもそこまでこだわらない感じ、接触されてもすぐにボールを足から離して自分に思い切りタックルしてこさせないような。キックモーションも足が長いからなのか、気が抜けた感じで思い切らない。基本的に柔らかい感じかアイデアに溢れたパスを出すように思う。ドリブルも足の長さの影響か、かなり遠くの場所にボールを置いていてもコントロール出来ているように思う。今日も後半に左のサイドラインで相手に囲まれたときに軽いタッチで左足のつま先でディフェンスの意表を突くようなループパス。あの場面で見方選手を見つけて、しかもあのパスを出せるのは面白い。今回めちゃくちゃフューチャーされた選手ではないが、これから先の大学サッカーで注目していきたい選手だ。

あと印象的だったのがPK戦の山梨学院高校の3本目。キッカーは背番号18 山口丈善選手。試合には後半から出ることが多い印象の山口選手。端正な顔立ちからか軽いプレーが多いのかと思いきや全体を通して中々のファイターかつ上手くボールを運んでいけそうな選手にも見えた。その山口選手がPKを蹴って決めた瞬間、太ももの裏が攣ったようだった。足を引きづりながら喜ぶ山口選手の姿を見て、本当に満身創痍の試合だったと感じた。少し意外なところに見えるかもしれないが、両サイドバックの飯弘選手と鈴木剛選手の対人プレーの強さや相手に負けないという気持ちのこもったプレーは、今後もさらなる武器を身に付ければ良い選手になりそうな期待したくなるようなプレーだった。一瀬選手のデカさや球際やペナルティエリア内ではセーフティにクリア、なんとしてもゴールには近づけさせないという必死なディフェンスにはGK飯倉匠選手の前に立ちふさがる大きな動く壁のような選手だった。

ゴールを決めた広澤選手のトラップからゴールまでのステップの早さ、シュートまでのモーションの無駄のなさは圧巻だった。左サイドのコーナーでのディフェンス2人の間を抜いていった低い姿勢でのドリブルは一瞬メッシかと思ってしまった。フォワードの久保選手も相手陣内の右サイド真ん中あたりで青森山田高校の藤原優大選手とのマッチアップで当たり負けせずに、最後はユニフォームを引っ張られてファウルになったが、凄いパワーを感じた。もっと身体を強くしてボールをキープすることができたらかなり良い選手になるんじゃないかと思う。

浦田拓実選手と中根悠衣選手の途中から出場した2人のチームへの献身性も非常に目立った。彼らがそういう信頼を監督からもチームメートからも得られているからこそ、あの舞台に立ち、そのプレーを出せたのだろうと思うと、これもまた味のある選手を見つけたなと嬉しく思う。

それにしても今年はロングスロー対決といっても過言ではないくらい、多くのチャンスを演出したのがロングスローだ。青森山田高校の内田選手、山梨学院高校の新井選手。もはや2人でどのくらい投げたのだろうか。40m級のロングスローなんて、間近で見たことがないから想像できないが、正直一生分からないくらいのプレーに思えるくらいすごかった。

山梨学院高校の同点弾を決めた野田武瑠選手の冷静なゴール。最後、山梨学院の背番号10がゴールを決めることを宣言していた。見事なゴールだった。途中で足がつってプレーを出来ないと判断したときもあっさりと交代を受け入れたのも、自分よりも走れる選手が入ったほうがいいととっさに判断したのじゃないかなと。これは僕の想像だが。ベンチに戻り、延長、PKとなったときに彼にカメラが向けられたとき、彼は笑っていた。この状況でどっちに試合が転ぶか分からないこの状況を彼は笑顔で過ごしていた。このゲームが本当に楽しかったのだろう、楽しんでいたのだろう。高校サッカー最後の試合を思い切りやり切ったのだろうという思いが伝わってきた。

ちなみに破れた青森山田高校は、山梨学院高校と比べて2年生の起用が多かったように思う。しかも特に成長が楽しみな選手ばかり。1トップを張った名須川選手のひたむきにゴールに向かう姿勢、前線からの献身的な守備、そしてこれは意外だが今日のプレーを観ていると随分とスタミナがあるように思う。後半に右サイドでプレーをした藤森選手はスピードとドリブルを武器にどんどん相手の左サイドを翻弄していた。ギリギリのところで山梨学院のディフェンス陣が踏ん張っていたが、2点目の安斎選手のゴールは完全に藤森選手のプレーからだった。

そして日本のサッカー界が期待をかける背番号10 松木玖生。彼のプレーには多くのサッカーファンが注目していただろう。彼もまだ2年生である。もしかしたら今後の日本サッカー界を背負っていく選手になるかもしれない。壱年前よりも一回りも二回りも身体が大きくなり、選手としても去年のようなガツガツさや荒々しさはなくなった。ポジショニングやセカンドボールへの寄せ、ボールの受け手、そしてフリーキッカーとしてフォア・ザ・チーム、つまりチームのために戦うプレーを見せてくれた。2年連続の準優勝は確かに悔しいはずである。しかし、サッカーファンとしては彼がこの2年で成長した姿をテレビの画面越しでしか分からないが、少なくとも来年はどんな選手に成長してくれるのだろうかという期待とワクワク感が抑えられない。

今回の選手権、正直初めて感じたことがある。今回3年生はプロになる選手もいるが、大学でサッカーを続ける選手がほとんどだろう。彼らのほとんどがまたプロになることを少なからず夢見ている。次のステージでも成長を遂げて4年後、今日からプロになった選手を超えられるようにまた大変で苦しい練習を続けていくことになる。絶対に高卒プロの彼らに負けないと。

今の日本サッカーは大学卒業後の選手が随分と増えてきた。4年間しっかりとサッカーの基本を学び、試合に出場し、大学という場所を通して多くの人たちと出会う。また学問を通して、人間的な成長を遂げていくのもあるだろう。クレバーで、人間性にも優れた選手。これがおそらく現代サッカーでは必要とされる重要な要素なのではないかと思われる。

今日出場した選手たちが、また明日から各々のステージに向かって新たな一歩を踏み出す。彼らがどんな成長をしていくのか、いちサッカーファンとして非常に楽しみである。

今まで大学サッカーにはそれほど興味はなかったが、今回を期に大学サッカーにも注目していきたい。と、高校サッカーからは少々脱線してきたが、やはりいくつになってもサッカーからは離れられないようだ。彼らのプレーする姿を写真に収めてみたいし、彼らのプレーや特徴を詳細にしてスカウトマンたちに情報提供するなんていうのも楽しそう。

今日、テレビの画面の中で出会った彼らの未来。4年後、彼らがどんな選手になっているのか楽しみでしょうがない。

2021年1月11日、彼らの新たな試合開始のホイッスルが吹かれた。

~fin~

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