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名作選7「おばあちゃんの梅干し」

いよいよばあちゃん特製の梅干しがなくなりそうです。
あれがないと夏をうまく乗り切れるか、わかりません。
ああ、困ったなあ。

2020年「あの人との、ひとり言」コンクール入賞作品より
静岡県 はるさん(女性)
手を合わせるお相手:おばあちゃん


真夏の炎天下のもと、汗も気にせず走り回っていた子ども時代。渇いた喉を潤すのはがぶ飲み麦茶と縁側に座って食べたスイカ。夜になると、蚊取り線香の香りの中花火をして、風鈴が聞こえる畳の部屋で寝た。そんな子ども時代の夏の思い出は、誰しも記憶のどこかにあるもの。

夏の思い出の中に出てくる食べ物もある。

おばあちゃんの家で食べた昼の定番と言えば、ぬか漬け、そうめん、梅干しのおにぎり。味噌小屋と呼ばれる離れがあって、そこで自家製の味噌を熟成させるのだと聞いた。大きな壺に入った梅干しもそこに保管されていた記憶がある。

壺を開けると、梅酢にひたった大きな梅がぎっしり入っていて、見るだけでつばが出てくる。梅干しは毎年漬けるから、熟成された年代物もあり、それらはお湯に入れて飲んだり、調味料がわりに使っていた。すべてに無駄がなく、何より家族の健康を守ってくれる祖母はかっこいいなと思っていた。


いよいよばあちゃん特製の梅干しがなくなりそうです。

作品より抜粋

毎年漬けてくれていた大量の梅が、おばあちゃんが亡くなってから少しずつ食べ進めいよいよ底が見えてきた。市販の梅干しでも、自分で漬けた梅干しでもその代わりにはならない、唯一無二の梅干し。

梅干しは不思議なもので、同じように漬けても人によって味が違う。塩加減や天候などもあるだろうが、実は目に見えない何かが手から出ていて、それによって味が決定づけられるような気がする。その方の歩んできた人生の中で耕されてきた心の機微が、熟成されてまろやかになってそれが手から出ている気がしてならない。だから、若い人が作った梅干しと人生を重ねた大先輩が作った梅干しでは、経験値以上の味の差が出てしまうのではないだろうか。

つまり、作者が愛してやまない「ばあちゃん特製の梅干し」には、作者を元気にする見えない何かがこめられている。他では代替できない、唯一無二の梅干しなのだ。

あれがないと夏をうまく乗り切れるか、わかりません。
ああ、困ったなあ。

作品より抜粋

切実に困っているようで、この状況を楽しんでいるような余裕さえも感じる。最後の一個になったとき、作者はどうするのだろうか。しげしげと眺めて、ちょっとずつ食べるのだろうか。思い切って口に放り込んで食べてしまうのだろうか。

いずれにせよ、最後の一個を食べてしまったあと「ばあちゃんの味」を再現するべく自分で梅干しを漬けてみるのかもしれない。梅干し漬けマスターのDNAが騒ぎ出すのではないか。

梅の時期には、おばあちゃんを想って梅仕事をする作者の笑顔が見えた。



このブログでは、「あの人との、ひとり言」コンクールの入賞作品の中からランダムにチョイスした名作たちを紹介して参ります。作者の心情に寄り添ったり、自分もこういうことがあったなと思い出を探してみたり、コンクール応募のきっかけにもなれば幸いです。

ステキな作品に、どうぞ出会ってください。

「あの人との、ひとり言」コンクール 応募要項
【賞】

大 賞   [1名様]賞金5万円 カメヤマ商品
審査員特別賞[1名様]賞金2万円 カメヤマ商品
ペット賞  [1名様]賞金2万円 カメヤマ商品
カメヤマ賞[20名様]JCBギフトカード 5,000円 カメヤマ商品
入 賞 [100名様]カメヤマオリジナルグッズ
WEB応募者全員にカメヤマネットショップで使える500円オフクーポンプレゼント

【募集内容】
手を合わせると出てくる「あの人との、ひとり言」
※未発表の作品に限る
※助詞や語尾を変えただけの類似作品や同じ作品の二重応募は不可

【テーマ】
亡くなられた大切な方に向けて手を合わせたとき、あなたの心にはどんな言葉が浮かびますか?手を合わせると出てくる言葉を募集します。

【提出物】
●作品
※80文字以内
※郵便ハガキで応募の場合は、以下の事項を記入
氏名・フリガナ・性別・年齢・ペンネーム・郵便番号・住所・電話番号・投稿文・手を合わせる相手
※複数回の応募可

【参加方法】
提出物を下記提出先まで郵便ハガキにて郵送
または、公式ホームページの応募フォームより投稿

【参加資格】
不問
※本名で応募すること

【応募期間】
2023年6月1日(木) 〜 2023年9月30日(土) 23時59分
※官製はがきによる応募の場合は 9月30日当日消印有効

【審査員】
湯川れい子(音楽評論家、作詞家)
右田昌美(クロワッサン編集長)
若林剛之(SOU・SOU プロデューサー)
木村光希(株式会社おくりびとアカデミー 代表取締役)
谷川花子(カメヤマ株式会社 代表取締役会長兼CEO)
※順不同、敬称略

【結果発表】
入賞作品は、厳正な審査の上、当サイト及び雑誌『クロワッサン』12月8日発売号誌面にて発表

【著作権の扱い】
入賞作品の発表や出版に関する著作権は、二次利用を含め、カメヤマ株式会社に帰属

【応募・問い合せ先】
カメヤマ「あの人との、ひとり言」コンクール事務局【WEBで応募】
コンクール公式サイト https://www.kameyama.co.jp/hitorigoto/
郵送で応募〒519-0111 三重県亀山市栄町1504-1 カメヤマ株式会社
お問い合せ先0595-86-0102
 ※10時〜17時(土日祝日・8月11日〜8月16日を除く)

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