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【詩歌の栞】5/3 五月はどんな月?「五月礼賛/与謝野晶子」

五月です。大型連休です。地元でも久々に観光地に旅行客が詰めかけている様を大々的に報じています。
私は・・・滞留している仕事が頭と心にどよーんと影を落としているのですが、それは一時棚上げにして学校休みの子供たちの諸々に忙殺されております。

そんなこんなで五月の私は心身ともに低調なのですが、一方で花や緑の美しい生命力を謳歌する時期でもあります。

与謝野晶子の「五月礼賛」は、声に出してみると活き活きとした命の輝きがあふれ出してこちらの枯渇しそうな心が潤ってくるような気がします。
晶子さんは、6男6女のお母さんだそうです。この詩には4男アウギュストの初節句をうたっていますね。
想像するだけで眩暈がしそうです。わたしなぞ、あっという間に生命力を吸い取られてひからびてしまいそうですが、晶子さんのこのエネルギーときたら。
愛しい夫を追って、シベリア経由でパリへ。情熱と行動力がすごいです。

それとも、心身に活力が満ち満ちていたからこそ、数々の傑作も子供たちも生み出せたのか。
私もうるわしくもたくましい晶子さんを見習って少々のごたつきはあでやかに笑ってふきとばしたいものです。

五月礼讃
五月は好(よ)い月、花の月、
芽の月、香の月、色の月、
ポプラ、マロニエ、プラタアヌ、
つつじ、芍薬、藤、蘇枋、
リラ、チユウリツプ、罌粟の月、
女の服のかろがろと
薄くなる月、恋の月、
巻冠に矢を背負ひ、
葵をかざす京人が
馬競する祭月、
巴里(パリイ)の街の少女等(をとめら)が
花の祭に美しい
貴(あて)な女王を選ぶ月、
わたしのことを云いふならば
シベリアを行き、独逸(ドイツ)行き、
君を慕うてはるばると
その巴里まで著いた月、
菖蒲(あやめ)の太刀と幟とで
去年うまれた四男目の
アウギユストをば祝ふ月、
狭い書斎の窓ごしに
明るい空と棕櫚の木が
馬来(マレエ)の島を想はせる
微風(そよかぜ)の月、青い月、
プラチナ色の雲の月、
蜜蜂の月、蝶の月、
蟻も蛾となり、金糸雀(かなりや)も
卵を抱く生みの月、
何やら物に誘(そゝ)られる
官能の月、肉の月、
ヴウヴレエ酒の、香料の、
踊りの、楽の、歌の月、
わたしを中に万物(ばんぶつ)が
堅く抱きしめ、縺(もつ)れ合ひ、
呻き、くちづけ、汗をかく
太陽の月、青海(あをうみ)の、
森の、公園(パルク)の、噴水の、
庭の、屋前(テラス)の、離亭(ちん)の月、
やれ来た、五月、麦藁で
細い薄手の硝杯(こつぷ)から
レモン水をば吸ふやうな
あまい眩暈(めまひ)を投げに来た。

五月礼賛/与謝野晶子