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【読書日記:補遺】6/28 葛飾北斎・日新除魔図

 昨日、葛飾北斎とその娘・応為の物語、「応為坦坦録/山本昌代」を読みました。
 その中にこんな場面がありました。

鉄蔵はそんなひとりごとをいって鼻の頭を掻いていたけれど、明くる朝何を思ったか起きぬけに墨をすって、紙に大きな獅子の絵を描いた。そうしてできあがった絵をしばし満足そうに眺めてから、いきなりクシャクシャっと紙を丸めると、土間に下りて戸を開けざまにポイと戸外に捨てた。
「何してんの」
寝起きのよくないお栄は、腫れぼったい目をようやく開いて鉄蔵に声をかける。
「魔除けだ。」
「・・・紙を丸めて捨てるのが」
「中に獅子が描いてある。それが魔物を払うんだ」
「ふうん。そう。」

応為坦坦禄/山本昌代より

あ、日新除魔図!と嬉しくなりました。https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/578226

北斎は83歳を迎えた天保13年(1842)から翌14年にかけて、「日新たに魔を除く」ことを願い、ほぼ毎朝、獅子や獅子にゆかりのある人物などを日課として描いた。注文に応じて制作した作品とは異なり、画家本人が厄除けのために描くという非常にプライベートな性質の資料としても、極めて高い価値をもつ。

文化遺産オンラインより

今年の4月、太宰府天満宮にお参りに行き、その隣の九州国立博物館にもよりました。そこでこの「日新除魔図」のことを知りました。
いろいろな姿の獅子(時々獅子舞も)が、のびやかに描かれています。
強さで魔を祓うというよりもどこかとぼけて魔の毒気を抜くような味わいがあって、いいなあ、と興味深く眺めました。

北斎が日課としていたからかそれを描いた日付も入っています。
83、4歳で、獅子という題材で毎日これだけ違う構図の絵を生み出せるなんて・・・と驚きました。絵の才もですが、90歳で亡くなる直前まで絵に対する情熱と向上心を持ち続けたことが何より凄い、私ごときが最近年取った、と嘆いている場合ではないなあ、精進せねば、と思ったのです。

そんなことが最近あったので、物語の中で獅子を描く場面に目が留まりました。ああ、この時にこんな獅子を描いたのか、と。
こんなおまけの御縁も楽しい読書体験でした。

除魔図をあしらったさいふごま。何だか丸っこくなっているのを選んできました。ミュージアムショップ限定販売です。

まるまっているところがかわいい

さいふごま

古くより、太宰府天満宮に参拝することを「さいふ参り」と申すことからその名が付けられました。
福岡のこまは、御祭神菅原道真公が大宰府に西下の際にお連れになられた幼い御子、隈麿呂公・紅姫様を慰めるためにお持ちになられたこまが、この地に普及したものと云われています。

さいふごま