【雑記R6】ひとりたび
福岡に一泊旅行に出かけました。
現在大小様々な問題が山積みで八方塞がりで煮詰まっておりまして(そのせいで源氏物語への逃避行動も加速中)見かねた夫が気晴らししてきたらどうかと提案してくれたので、ありがたくそうさせてもらいました。
結婚以来はじめての、家族旅行でもなく仕事がらみでもないおひとりさま旅行です。
おかげさまでゆっくりできたので、すこし優しくなれそうです。
目的その1 博多座で歌舞伎鑑賞
博多座は、それほど客席が多くないので舞台とも花道とも近い!ので役者さん がすぐそこにいるところが良い点です
今回の注目点、宙乗りも本当にすぐ真上を通り過ぎていきました。
一、江戸宵闇妖鉤爪(えどのやみあやしのかぎづめ)
明智小五郎と人間豹
市川染五郎大凧にて宙乗り相勤め申し候
江戸川乱歩の小説「人間豹」が原作の創作歌舞伎です
松本幸四郎と市川染五郎の二人がそれぞれ明智小五郎と人間豹(恩田乱学)を演じました
人間豹(恩田乱学)と明智小五郎(隠密同心)との対決の場でワイヤーを使って木々の間を飛んで半人半獣の動きを表現したり、最後は大凧に乗って劇場を斜めに横切る筋交いという宙乗りをしたりと、分かりやすい仕掛けが多くて楽しく見ました。
人間豹を演じたのは、市川染五郎。
大河ドラマ「鎌倉殿の十三人」で木曽義仲の息子義高を演じていて、線の細い悲劇の似合う少年というイメージでした。
神谷芳之助(恋人を人間豹に相次いで殺されて心が壊れる若侍)は、その印象通りでしたが、二役で演じた人間豹・恩田乱学は野太い声と野獣っぽい所作で少々びっくりしました。
人間豹が派手な隈取、赤く彩った舌と大きなかぎ爪を見せつけながら私の座席の真上を宙乗りで過ぎていくのを見ながら「うつし世はゆめ 夜の夢こそまこと」という恩田乱学の母・百御前の台詞(乱歩自身が好んだことば)を反芻し、きらきらと舞い落ちてくる紙吹雪が今宵の夢のかけらのようで大切にしまい込みました。
私は、江戸川乱歩の小説はほとんど読んだことがありません。
小学校時代に表紙のおどろおどろしさに恐れをなして、手に取る機会を逸してしまったのです。「人間豹」も遅ればせながら読んでみようと思います。
二、「鵜の殿様」
滑稽で明るい舞踏劇でした。
本当はついていない縄にひっぱられてよろけたりころんだりという様子や、鵜のまねをして手をぱたぱたさせる様子がユーモラスでかわいらしい。
演じているのが父と子であり、そのむつまじい様子に心がほのぼのとしてきます
一つ目の演目が少し陰惨なところもあったので、御口直しのような位置づけで明るいきもちになりました。
私は、役者さんたちだけでなく、舞台上で後ろに控える囃し方さんたちを見るのが好きです。
真直ぐ前を向き、楽器を演奏する手、謡う口元以外はほとんど動きません。
表情も変わりません。
鼻の頭とかかゆくならないのだろうか、目の前の滑稽な芝居に頬がゆるまないのだろうかと思いながらじーっと見ています。
目的その2 BookHotel宿泊
最近、日本のあちこちに出来ているBOOKHOTEL
憧れでした
自宅に本は山ほどあるではないか、しかも積読もうずたかく。
それを読め。といわれてしまえばそれまでなのですが、本の沢山あるお宿に泊まってみたかったのですよ。
良い機会なので泊ってきました。
ランプライトブックスホテル福岡
一階がブックカフェで宿泊者は24時間利用できます
旅、食、ミステリをテーマにした本を中心に約4000冊。
部屋にも本が飾ってあるし、座りやすいソファと電気スタンドがあって読書環境としてはなかなかです。
家事も育児も仕事もする必要もなくひたすらコーヒーを飲み、博多座で調達してきたお団子食べ、本を読んでいました。
あ~ じだらく じだらく ごくらく ごくらく
借りて上がった本を読み終わったので、草木も眠る丑三つ時、真夜中のお出かけ(外にはいかないけれど)も十数年ぶりだなあ、と思いながら一階のブックカフェに降りました。
カウンターの中のお兄さんにテイクアウトの珈琲を頼み、次に借りる本をゆっくりと選びました。
真夜中の本屋さんを独り占め。
しーんとした店内、満ちてくる珈琲の匂い、本、本、本。
部屋に入り、今度はベッドの上でゆっくりと読書。
3時過ぎの時計をみた記憶はあるのですがいつの間にか眠っていたようです。
朝は、寝坊する気満々だったのですが、久々に夢も見ずに眠ったせいか6時半には目が覚めてしまいました。
でも、朝ごはんの支度も子供たちを送り出す必要もなし。
ごろりと転がったまま手を伸ばしてベッドサイドテーブルに置いた本をとり、そのままだらだらと読む。
お腹がすいてきたので、朝ごはん(クロワッサンサンドとサラダ)を食べにカフェに。
主に読んだ本。
「金曜日の砂糖ちゃん」酒井駒子著 偕成社
3つの短編の納められた絵本。きれいな絵と不思議な話、なのに少し不穏なざらつきが胸の中に残ります
お昼寝をしている「金曜日の砂糖ちゃん」という女の子をかまきりが守る話、さみしいことがあったから知らない道を通って帰ることにした男の子が草原で音の出ないオルガンを弾く話、夜と夜の間に目を覚ました女の子がお母さんのシュミーズを着て裁縫箱から針と糸をクッキー缶に入れて犬のひく橇に乗って出かけていき、戻ってこないお話
「海と山のオムレツ」(新潮社CREST BOOKS)
カルミネ・アバーテ (著),関口英子 (訳)
食べることはその土地と生きてゆくこと。南イタリア・カラブリア州出身の作家が、幼少期に食べたオムレツ、婚礼の宴の伝統料理、クリスマスのご馳走など郷土の絶品料理と、家族と土地の記憶を綴る自伝的短篇小説集(商品解説より)。
オリーブオイル、にんにく、とうがらしのきいた料理がたべたくなる
アンナ・カレーニナとの出会いの場面が魅力的でした
「きえもの」九螺ささら (著) 新潮社
本を開いて五分で飛び立つ、非日常の世界。短歌と物語が響き合う小宇宙。ネクター・ハチミツ・鳩サブレー……。幾つもの「きえもの」=「たべもの」を切り口に、ありふれた日常の風景の中に非日常への扉を描き出す。現実と夢、有と無、わかるとわからない、重なり混じり合う境界線を飛躍するその一瞬を、鮮やかに切り取ってゆく。ドゥマゴ文学賞を受賞した気鋭の歌人による、燦めく言葉の万華鏡(商品解説より)
「亡命ロシア料理 新装版」
著者 P.ワイリ (著),A.ゲニス (著),沼野 充義 (訳),北川 和美 (訳),守屋 愛 (訳)
ソ連から亡命してアメリカにやってきたロシア人の文芸批評家が、故郷の味を懐かしみ、本物のロシア料理の作り方を伝授。同時に、ロシアとアメリカの両者を視野に入れた文明批評を行う(商品解説より)
本当は連泊したかったけれど。後ろ髪をひかれる思いでお宿を後にしました。
目的その3 長沢芦雪展とさいふまいり
二日目は、大宰府へ。
目的は九州国立博物館で開催されている長沢芦雪展です。
長沢芦雪は18世紀後半の絵師。
円山応挙の弟子として頭角を現し、動植物を活き活きと描きました。
芦雪の筆には仙気があり、その動植物には生気がある
そのように評された「奇想の画家」の系譜に連なる芦雪
ころんころんと遊ぶ犬
華やかな孔雀
躍動感あふれる虎
こちらをからかっているような顔をした猿
無心に遊ぶ唐子
写実的でありながら、ふんわりとあたたかい滑稽味が漂い、生きている喜びが伝わってくるような気がします
イヤホンガイドも借りて、好きな絵を好きなだけ、誰にもせかされることなく時間を気にすることなくぼんやりと眺めておりました。
ガイドの中から印象に残ったお話をご紹介。
芦雪の印として、魚の文字を図案化して周りをくずれた六角形で囲んだものがあります。
芦雪が応挙の弟子として修業していた頃の冬の朝、川が凍って魚が氷の中に閉じ込められていました。しかし、陽がのぼると氷はとけ、魚は泳いでどこかへ去っていきました。
その話を聞いた応挙は「画もいずれ修行で学んだ型から氷がとけるように自由になり自分の絵が描けるようになる」と諭したそうです。
先人の真似をして学んで努力をして、いつか自分の境地を得る、何事も同じなのでしょう。
なかなかとけない氷もいつかとける日がくる、そう信じてがんばるしかないなあ、と絵の片隅に押された落款を眺めておりました。
九州国立博物館は、太宰府天満宮の隣なので、もちろんお詣りも行きました。
参道は人が多くて多くて。
ゆっくりとお食事もしたかったのですが、行列に並ぶのもわずらわしく、食べ歩きの梅ヶ枝餅でお腹ふさぎしてしまいました。
あちこちで食べ比べして、いくつ食べたかは、内緒。
なお、大宰府天満宮の本殿は、今、建て替え工事中で仮社殿です。
その社殿の屋根は、小さな庭、というか木や草が植えられています。梅の木も植えてあり白梅が咲いていました。
お詣りして境内の梅を眺めて。
太宰府天満宮を参詣することを「さいふまいり」というそうですが清々しいよいお詣りになりました。
一泊二日のひとりたび。
これにてすべての行程を終了。
さ、またがんばろう。
家族への申し訳にたくさん買って帰った福岡銘菓のお土産の一部。