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【読書日記】4/26 カステラを読む。「かすてら文學館これくしょん」

カステラ文學館これくしょん
明坂英二 下谷二助 松翁軒

「ときどき旅にでるカフェ(近藤史恵 著)」を読んで、なんとなく「旅(異文化)と食」について考えています。
その関連で昨日は「被差別の食卓(上原義広 著)」で、やや苦めの本を読んだので、今日は糖分多めの本を。

数年前(コロナ前!)長崎に旅行に行ったときに見つけた、松翁軒というカステラの老舗の新聞広告を集めた本です。文豪たちのカステラに纏わる逸話が30編。

たとえば、樋口一葉。依頼された手紙の実用文例集の中の「春雨ふる日友に」という一通。
 歌の友へ鶯の声、雨に濡れた柳について語り「手製のかすていら折からの御慰みにもと進じ候  笑はせ給へや かしこ」と、文に手作りのカステラを添えておくる。

これ、実用文例・・・なの?小説の一幕ではないかしら。
この「通俗書簡文」の他の文例の題は「歌留多会のあした遺失物をかへしやる文」とか「退校せんといふ友を諫むる文」とかで、想像をかきたてられます。
いったい一葉さん、このお題でどんな文を書いたのか・・・。読んでみたくなります。
 それにしても「手製のかすていら」。実用文例に取り上げようと思うぐらいなのだから(そして、それがそのまま採用されているのだから)、今のクッキー感覚なのかしら???そういえばぐりとぐらもフライパンでカステラ焼いていたよね・・・。と連想がとまりません。

森鴎外は軍医でもありましたが、わざわざ上野から取り寄せたカステラの成分分析を行って「彫玉飛屑」なる題で医学雑誌にレポートを発表しています。・・・なぜ、そんなことを???

西城八十の童謡「お菓子の家」。
 「山のおくの谿あひに きれいなお菓子の家がある」
と始まり、飴ん棒の柱、チョコレイトの瓦、麦落雁にビスケット・・・
そして「あつく黄ろい鎧戸も おせば零れるカステイラ」
 夢のようなお菓子の家ですが、この家にいてよいのは「ふたおやのないこどもだけ」
あまくやさしく哀しい「お菓子の家」の詩です。

などなど名立たる文豪のエピソードに事欠かないほどカステラが日本の文化の中に溶け込んでいる証なのだと思います。

カステラの歴史については、松翁軒さんのホームページで紐解いてみます。

時は元亀二年(1571年)、室町時代の終わり、世界は大航海時代の真っ盛り。開港したばかりの長崎港に、遥か遠くの西欧から、交易を求め、初めてポルトガル人が上陸しました。現代でも日本中に有名な長崎の銘菓カステラは、この頃に日本へ伝わったと言われています。
当時カステラはスペインに古くから栄えたカスティラという王国のパンとして長崎の人々に紹介されましたが、やがてその由来となる名前だけを残し、長崎で作り続けられていったのです。

松翁軒ホームページより「長崎カステラの歴史」

江戸時代の人々は、カステラを食べながら(口にできたのはほんの一握りの人でしょうが)遠い異国に思いを馳せたのでしょう。

黄色いふんわりしっとりしたあまーいカステラ。
幸せな気持ちをもたらすお菓子です。
それは、自分たちとは異なる文化から来た食べ物を柔軟に取り入れて自分たちの良いところと組み合わせて新しいものをうみだした人々のおおらかさ、あたたかさによるのかもしれない、そう思います。

カステラ。
本を読んでいるうちにすっかりカステラの口になってしまいました。