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【読書日記】5/6 花と緑の季節。「月刊MOE 牧野富太郎特集」

絵本のある暮らし。月刊モエの今月号の巻頭大特集

牧野富太郎 I Love 植物

1500種類以上の植物を命名し、正確で緻密な植物画を描き、図鑑を作り植物の知識・魅力を広めた稀代の植物学者、牧野富太郎博士について様々な切り口で紹介しています。

「キーワードで知りたい牧野富太郎のAtoZ makinopedia」

牧野富太郎博士の人柄と業績をAからZまでのキーワードでひもとく企画。
AはAn Illustrated Flora of Nipponすなわち「牧野日本植物図鑑」から始まりKのKoinyoubou(恋女房)で博士を献身的に支え続けた壽衛(すえ)さんのことを、そしてWのWeed(雑草)のかの有名な「雑草という草はない」ということば、最後のZはZZZ(胴乱を枕にお昼寝)、と、図版や写真を豊富に使い、牧野博士の人生、業績、名迷言を特集していて読み応えがあります。

「草を褥に木の根を枕、花と恋して九十年」「私は植物の愛人としてこの世に生まれ来たように感じます。あるいは草木の精かもしれんと自分で自分を疑います」のように浪漫のある言葉もある一方で、「キクラゲはびろびろびろと雨に濡れ」など、きくらげのびろびろ具合をまるで小学生が喜んでいるように無邪気に詠った連作など、いくつかの面がひとりのなかに同居しているのが興味深いです。

そして、赭鞭一撻(しゃべんいったつ)という植物学を極めようと志した牧野博士が18歳くらいの若かりし頃に記した15条。
それを記したクリアファイルが特別ふろくでついています。
一、忍耐を要す 二、精密を要す 三、草木の博覧を要す・・・
とあって、ふむふむ、学問を志すものかくあるべし、と読んでいくと、次のような項目が出てきました。

九、吝財者は植学者たるを得ず
 「植物学者は財を惜しんではいけない」

・・・これはいかがなものか。
学問をするのに書もいる器材もいる、それを購うにけちけちするようでは植物学者にはなれないとのこと。一見、もっともらしいですが、私に言わせれば裕福な実家のすねかじりの分際で何をいうか、です。
 そんな料簡だから実家の資金を喰らい尽くし、借金が3万円(現在の約3億)にまで膨れ上がり月給以上の研究費を使うことになるのです。
 牧野博士の業績が偉大だから、こんなことも破天荒な生き方、天才、と良い風に解釈されています。
 奥様の献身(待合を経営して資金面で支え、借金取りの対応も一手に引き受けていたらしい)によって支えられ、それに感謝して新種の笹に「スエコ笹」と名付けたエピソードなどで「なんだかいい話」のようにされてますが、とんでもない話です。

 私が腹を立てても仕方ないので気を取り直して、十、跋渉の労を厭うなかれ(山々を歩き回る苦労を嫌がってはいけない)で、うん、仰る通り。
そして、十一 植物園を有するを要す(植物園をもつこと)
・・・だから、資金はどう考えているんだ、牧野君。

そんなこんなで、常識的な凡人には受け入れがたいところもあるのですが最後の15条

十五 造物主あるを信ずるなかれ(万物の創造者の存在を信じてはいけない)

と、あって、少し驚きました。
不思議なこと、分からないことの答えとして「神様」を持ち出してはいけない、ということのようですが、本人が金銭感覚も含めて浮世離れしていることや「草木の精」などと名乗っていることから、神秘的なことも肯定するタイプのひとなのかと勝手に思っておりました。
 真理を探究する学問に「神」を持ち込んではいけない、という学問を志すものとしては当然の姿勢なのでしょうが、牧野博士の多様な面を見たような気がしました。

特別ふろく 牧野富太郎の15ヶ条

その他の記事として、私が好きなものは以下の通り。
牧野博士の出身地、高知の日曜市の野菜を使った「春のテーブル」。トラネコボンボンさんの緑さわやかな食卓がさわやかです。

「心を潤すみどりの絵本」の特集。
 「木に会う、草と遊ぶ」「花・たね・実を愛でる」「庭と畑を楽しむ」「植物と生きる」と題して絵本を紹介しています。
 「牧野富太郎の横顔」として、先日こちらでもご紹介した「ドミトリーともきんす」もあって嬉しくなりました。

MOE今月号、その他の特集のお気に入りはこちら。
「宮沢賢治が愛した風景を探して」
「母のももこ 作家のももこ さくらももこの毎日」
「ブレイディみかこさんとヨシタケシンスケさんの対談」
「石黒亜矢子 妖怪の世界へようこそ!」
「童謡詩人金子みすゞが見つめたもの」


 新刊の紹介などもあり・・・読みたい本リストがまた分厚くなりました。