【読書日記】5/23 初めての台湾文学。「歩道橋の魔術師/呉明益」

歩道橋の魔術師
呉明益 作 天野健太郎 訳  河出文庫

中島京子さんのエッセイ「小日向でお茶を」で台湾の小説、中でも一番のおススメとして紹介されていて興味を持ち読んでみました。

1980年前後の台北。中華商場は、鉄筋コンクリート造三階建ての建物八棟が約一キロにわたって立ち並ぶ商業施設でした。そこは、千軒以上の商店が軒を連ね、店舗兼住宅でもあったそうです。
だから、商業の場でもあり生活の場でもありました。
その「商場」で子供時代を過ごした人たちの追憶を綴った連作短編集です。

八つの棟をつなぐ歩道橋。歩道橋は広く露天商も多く店を開いていたそうです。
その歩道橋で手品用品を売ったりマジックを見せたりしていた「魔術師」
文字通り子供だましの小道具を売っているかと思えば、黒い小人を躍らせたり、自在に年齢を操って見せたり、絵から金魚を生み出したり、と本当に不思議な魔術としか思えない技をみせる。

商場を舞台にした人たちの「生」、そのすぐ隣り合わせにぽっかりと口を開けている「死」。その死に抗うかのように営まれる「性」。
生と死、明と暗、虚と実、陰と陽のはざまの物語

魔術師があらわれるのは、歩道橋。あちらとこちらをつなぐ橋の上は、魔術師の舞台としてふさわしいように思います。
また、魔術師の目は、右と左で見ているものが違うようなまなざしと描写されています。
現世と同時に幻世を見ているのかもしれません。

私は、読んでいて、不思議とモノクロの印象を受けました。
中華街の印象からいっても商店は原色が多かったでしょうし、夜には多数のネオンが瞬いていた描写もあるので、にぎやかで華やかな場所だったと思うのですが。
今は無い「商場」について、そして過ぎ去ってしまった過去について語っている物語だからなのかもしれません。

台湾の文化に疎いので、物語に出てくる食べ物や風習、地理、中国本土、日本、米国などの絡み合う社会情勢などを調べながらゆっくり読みました。
今までも雑誌やTVで観光地やグルメなどの台湾旅行情報を見たことがあったはずなのですが、百のガイドブックよりも一冊の本書。
今、「台湾に行ってみたい!」という旅心がむくむくと沸き上がってきています。

想像以上に魅力的な読書体験だったので、今まで馴染みのなかった「海外の現代文学」という新たな宝石の鉱脈を見つけた心地がしています。(積読本がさらに増える予感も。。。)