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【詩歌の栞】3/24 卒業と桜の季節に。「花の命は短くて/林芙美子」

風も吹くなり
雲も光るなり
生きてゐる幸福は
波間の鷗のごとく
縹渺とただよい
生きてゐる幸福は
あなたも知ってゐる
私も知ってゐる
花のいのちはみじかくて
苦しきことのみ多かれど
風も吹くなり
雲も光るなり

林芙美子が村岡花子へ贈った詩

「花の命は短くて 苦しきことのみ多かりき」
私は、長いことこの部分しか知りませんでした。
そして、私は「この言葉、苦手」でした。桜を見てこのような自己陶酔感あふれる台詞を言いつつ溜息をついている人とは、あまり仲良くなれないだろうな、と。

ところが、これは一連の詩の中の一節だったのです。
赤毛のアンの翻訳者、村岡花子へと贈った手紙にこの詩が書かれていたそうです。
イメージが全然違います。
敬遠していた人と話をしてみたら案外気が合うじゃないの、というくらいの意外性。

いつもいつも花の盛りとはいかなくても、思うに任せないことが多くても、風に吹かれるのも気分が良いし、雲だって色彩豊かに輝く雲もある。
生きているって、そういうこと。
きっぱりと潔い命への寿ぎの詩。
この季節に口遊みたい詩です。