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【読書日記】8/29 久々のファンタジー「スピリット・リング」

スピリット・リング (創元推理文庫)
著者 ロイス・マクマスター・ビジョルド (著),鍛治 靖子 (訳)

学生の頃は、ファンタジーをよく読んでいました。
ファンタジーというと幅広いのですがここでは、剣と魔法、魔物や精霊などが息づいているような世界を舞台に繰り広げられる物語だと思ってください。
ハヤカワFTや創元推理文庫(F)のあたりのレーベルを読み漁っておりました。

ところが、二十代半ば以降、段々とこの種のファンタジーを読む機会が減ってしまいました。
ファンタジーは、それぞれの作品にそれぞれの世界の理(ことわり)がありますが、その世界に自分を馴染ませるのに時間と手間がかかるようになってしまったのです。
「頭と心が固くなった」ということなのでしょうか。
本書は、その端境期に読んだ作品。奥付によると2001年発行です。
ご縁があって久しぶりに再読してみることにしました。

舞台は、15世紀末のルネッサンス時代のイタリア。モンテフォーリアという小さな公国です。主人公は、公爵に仕える大魔術師にして金細工師のプロスペロ・ベネフォルテの15歳の娘、フィアメッタ。
ムーア人の母譲りの褐色の肌の美貌と父親譲りの魔術の素質を持つ娘です。

「炎」の名の通り、フィアメッタは炎の術を使うことが出来ますし、情熱的で愛情深い、また、やや激情型なところも炎の性。
また、素質はあっても父親からは「女の子だから」という理由で魔術は教えてもらえないのですが、こっそりと父の魔導書を読んで学ぶ好奇心も向学心も行動力も備えています。

一方で、結婚に憧れる乙女らしい面もあり、その意中の人はスイス人の近衛隊長ウーリ・オクス。「真の愛の術」を試してみるものの脈なしで…。

魔術は学べない、結婚相手もいない、で少々不満の多い日々をおくっているものの父と娘、家政婦と徒弟でつつがなく送ってきた日々は突然断ち切られてしまいます。

フィアメッタ父娘が参加した、モンテフォーリオ公爵の娘とロジモ公フェランテの婚約の宴でフェランテによってモンテフォーリオ公が殺害されてしまうのです。

祝宴の場から突如戦乱の場となった城から命からがら脱出しますが、逃亡の途中でベネフォルテは、力尽きて死んでしまいます。
たった一人になったフィアメッタの窮地で出会ったのはトゥール・オクス。
ウーリ・オクス近衛隊長の弟です。
故郷の鉱山で働いていましたが、兄に呼び寄せられてモンテフォーリオに向かう途中でした。

このフィアメッタの相棒となる十七歳のトゥール、非常に好青年なのです。
よく巷で「理想の上司」などが話題になりますが、「理想の部下」コンクールなどがあったら上位入賞間違いなし。情に厚くて誠実、勇気はあるが蛮勇は振るわない、聡明かつ勤勉。こういう部下、ぜひ欲しいです。

それはさておき、フェランテは、配下ヴィテルリの黒魔術によって、大魔術師ベネフォルテの魂を「死霊の指輪(スピリット・リング)」に封じ込めて使役しようとしていることが分かります。

フィアメッタは、トゥールとともに、父の魂を救うため、また、生死の分からないオクス近衛隊長を救うため、そしてモンテフォーリオ公国を救うため、(未熟な)魔術の技と知恵と勇気で立ち向かいます。

毒を無効化する金の塩入れ
死霊をあやつる黒魔術師に堕ちたヴィテルリの呪術のおぞましさ
鉱山で働くトゥールを「金属をつかさどるもの」と呼び「火のもとへ行け」と予言を与えた土精(コボルド)。
絶体絶命の切り札としてフィアメッタの炎の力と魔術の技、トゥールの金属を司る力で生み出した最終兵器。
誇り高く気難しい稀代の大魔術師、そして娘を愛する父親ベネフォルテの最期。

久しぶりにファンタジックな要素満載の物語を堪能しました。
また、私自身もファンタジーを楽しめるようになったのかもしれません。