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【読書日記】10/28 不思議なこともあるがまま。「あらあらかしこ1/波津彬子」

あらあらかしこ 1 
波津彬子 著
小学館 フラワーコミックススペシャル

波津彬子さんの、あやかしに愛される骨董屋・雨柳堂シリーズを30年来愛読しております。
他にも不思議でやさしく、かなしく、時々恐ろしいお話を多く描いていますが、新しいシリーズが始まったようです。

怪異話の好きな小説家・高村紫汞(しこう)先生の家に書生としておいてもらっている怪異は信じない青年・深山杏之介。

小説家志望の書生・杏之介の毎日は忙しい。
毎朝、掃除をして朝食を作る。
原稿の清書をして出版社や郵便配達の取次ぎをする。
飼い猫・櫨染(ろぜん)の客(主に猫)に一片食のふるまいをする。

先生と書生と猫。

ある日、杏之介は随筆の清書を頼まれます。
その随筆の中に、紫汞先生が受け取ったとある手紙の一部を写すように言われるのです。

時折届く差出人の無い手紙。

朝夕の風 まことに秋らしくなり候
萩の葉に宿りし朝露を見るに
紫汞先生を思い出し候えども・・・・

差出人のない謎めいた手紙

などと時候の挨拶ではじまり、

あらあらかしこ

と優美に結ばれる手紙には、あちこちの旅先で「奇妙な話や不思議ないわれのあるところ」を探し、地元の人々からきいた話が書かれているのです

「そこで転ぶと猫になってしまう坂」の話や「お皿を貸してくれる狸穴」の話、「描かれていた幽霊が消えてしまった掛け軸」の話などそれぞれの地域にのこされている不思議話を落穂ひろいのように拾い集めて届く文。

好奇心にあふれて快活、情け深く聡明な人柄を感じさせる魅力的な書き手の様子がしのばれます。
 文体などから女手とはわかるものの、紫汞先生との関係は明らかにされていません。

その手紙を読み、清書をしている杏之介は、何やら手紙のあやかしと連動しておかしなものを見たり聞いたりするようで・・・。

手紙の差出人の謎もですが、どこか育ちのよさそうな杏之介の素性等、まだ明かされていないことも多く、これからの展開が楽しみです。

波津彬子さんの漫画には、よく猫が登場しますが、本シリーズでも、その貫禄と愛嬌でひときわ存在感を放つ猫、櫨染さんが活躍します

特に第5話「福猫」は、「夜、布団に乗って病を癒す猫」のお話でかわいらしくほほえましくて顔がほころんでしまいました。

櫨染さん。よい面構え。

今、並行して読んでいる京極堂「鵼の碑」の中禅寺のおなじみの口癖は「この世に不思議なことなどない」ですが、「ふしぎなことは そのままで」おいておくのもまた、心豊かに生きるこつかもしれない、そう思うのです。

櫨染さんは、この辺りの顔役。お悩み相談も受付中

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