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「SPICA」 第一話

あらすじ 灰色の大街『グレイシティ』。そこで生きる一人の賞金稼ぎ、アルトはある夜、一人の賞金首を追っていた。しかし、追い詰めた賞金首は何者かの手によって殺されてしまう。  殺した相手はこの街の絶対的存在、中央政府であった。  アルトも彼らに殺されそうになるが、一か八か、アルトは賞金首の持っていたスーツケースを抱え、その場を逃げ出した。後に開かれることとなるそのスーツケースの中には、記憶喪失の少女、スピカが入っているのだった。  そうしてアルトはスピカをめぐるいざこざに巻き込ま

    • 「SPICA」 第三話

       俺の部屋に時計は無い。それでも目覚める時間はいつだって六時三十分きっかりと決まっている。人々が活動を開始するには僅かに早いその時間になると、脊髄を揺らす振動と重低音が部屋に鳴り響くから。  この街が発する鳴き声は、地下にいるとその存在感を一気に増す。これが一日にあともう一度、二十二時にやってくる。それが俺の部屋で正確な時間を知る唯一の方法だ。  なぜ時計を置かないのかと問われると、理由は二つ。  一つはシンプルな金欠。ここしばらく、俺とノアは栄養ゲルで夕食を済ませなけ

      • 「SPICA」 第二話

         プラネタリウムの一件から数十分、俺はスピカを連れて第七居住区のグレモア街を歩いていた。前を歩く俺の足取りは一つの扉の前で止まる。  コンクリート製の古いビル。そこの裏路地にある味気ない扉はどう見ても裏口にしか見えないが、扉の先には地下へとつながる一本の階段がある。無機質なその階段を下へと進み、そしてまた重厚な扉を開けると、そこは暖かな光で満たされたリビングに辿り着く。  ソファや机、カーペット、その他棚やラジオなど、様々な家具が使いやすいように置かれた十二畳ほどの空間。

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