ウクライナのNタリー
Kiss me
大学三年生の時に、一年間中国に交換留学に行った。
中国の浙江省という上海から新幹線で二時間ほど行ったカントリーサイドで、日本円で毎食100円程度の物価の安さだった。
そんな中国留学に行く一週間前になんと彼女が出来た。
一年ほど片思いで中国語のイベントで知り合った彼女に憧れ、数回告白しては振られていた歳上の女性。
大阪湾から出港し、一日かけて中国大陸へ上陸する。
家族、地元の友達、彼女が来てくれ、親が見ている前にも関わらずキスしていた痛々しくも初々しいハタチの門出の瞬間。
毎日パソコンでのメール
スカイプでのやり取り
手紙交換
半年後には香港に現地集合現地解散の旅行、その一ヶ月後には自分が通っている学校に彼女が来て、留学生の友達、現地の友達、中国語が堪能な彼女は難なく溶け込み、遠距離ながらもいい関係を築けていた。
黒船ペリーのごとく、東欧ウクライナのNタリーがやってきた。
中国留学生演劇大会に参加していた自分は一年間限定の交換留学生の他に、四年間しっかり通うマスタークラスの留学生の友達も多かった。
Nタリーは中国語はもちろん、英語も完璧なマスタークラスで演劇大会には参加していないものの、よくサークルの飲み会には友達と来ていた。
そんないつも通りの飲み会が校外であり、ふらふらと酔いながら自転車で寮がある学校の敷地内にNタリーとたまたま二人で帰る機会があった。
途中学校の敷地内のベンチで涼みたい、と酔っ払っているNタリーは言う。
ベンチに座り、12月のひんやりと空気がツンとしていて星も綺麗な夜にとても気分が良かった。
Nタリーが、座っている自分の太ももに覆いかぶさるように座ってきた。
Kiss me
普段のやり取りはもっぱら中国語で、英語があんまり得意ではない自分を気遣ってくれていたNタリーの英語は新鮮だった。
目の前の金髪ブロンド美女がまさかアジア人のチンチクリンの自分にキスミーとねだる。
数回断ったが、最後は無理やりキスをされ、無理やりされたんだ、と言い聞かせ、流れるようにNタリーの口の中に舌が入っていった。
自分には遠距離の彼女がいる
Nタリーにも上海に彼氏がいる
誰にもバレないように、夜な夜な広大な大学敷地内の隅の芝生の上で寒さに耐えながら抱き合った。
日中、学校で会っても軽く挨拶をする程度、韓国人の女性と仲が良く一緒に歩いていると、数分後には、あれは誰ですか、とほとんどポケベルレベルの機能の手のひらサイズ携帯電話を使ってメッセージが送られてきていた。
校内の留学生寮から、校外に引っ越しをした頃には、留学生の目を気にすることなく頻繁にNタリーが家に来ていた。
パーティーがあった、と濃紺のサラッとした上品なワンピースを捲し上げ、ほんのりキラキラと光る金髪の柔らかい体毛に包まれながら、洋物のアダルトビデオのように大きく口を開け、英語でカモンカモンというNタリーをまるで自分も欧米人になったがごとく、激しく抱いた。
その頃、日本からイギリス留学に行き、金髪に染めていた彼女との連絡は日に日に雑になっていき、毎日パソコンメール、スカイプは途切れ途切れになり、喧嘩をすることも多くなった。
一年間の留学を終え、帰国した自分は武勇伝のごとく金髪ブロンド美女との思い出をベラベラと語り、共通の友人を通じて彼女が知ってしまった。
「ほんまあん時は2人とも100%好きやってん」
たんなる浮気だけなら許してくれるはずだったらしい彼女も、この誠実さをかけ違えたアホみたいな回答がきっかけで別れた。
彼女はその後数年で結婚したと友人から聞く。
表面的な金髪に目が眩み、すっかり黒髪に戻った彼女の写真を知り合いに見せてもらった時には心の喪失感がここまで続くとは思ってもみなかった。
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