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読書感想文『CF/吉村萬壱』(記録 2023/11/17)

なんか面白そうだから理由もなく買ってた小説。ドラクエやりながらちまちま読んで、ハンフリーさんが出てきた辺りで読了。ドラクエの進みが遅くない?

ざっくりネタバレするよ。







大傑作ではないけど結構面白かったな。SFを期待しないなら読んで損ないと思う。

犯した罪の責任を消化し、被害者の苦しみもろともなかったことにする技術「無化」を売り物にした大企業「CF」を中心とした群像劇。

CFは「無化」を売った顧客を自社で雇い、無化のための溶液を攪拌させる仕事に就かせる。給与は高額で彼らはCFから離れられなくなるが、無化の工程で体調を崩す者や、無化の実態を疑う者も続出し、疑念はやがてCF社へのテロへと発展し……という流れでストーリーは動いていく。

あらすじはかなりSFチックだがその実に秘めたロジックは極めて単純。CFは何もしていない。人間が罪の意識や過去の苦しみをやがて忘れるのは自然の摂理であり、そこにもっともらしい理論をつけて架空の売り物を産むことで会社を際限なく大きくしていく、壮大な詐欺が真相だと判明し物語は唐突に終わる。

最終的に作中世界の日本はCFに支配されるのだが、こういう大企業ディストピアものにしては珍しくCFが完全に肯定され、CFによりもたらされる未来は無欠で安泰であるという形でストーリーが終わるのが興味深く思えた。

登場人物が「詐欺の片棒を担ぐ者」と「自分の罪を無化したくて詐欺に騙される者」しかいないというサスペンス小説にあるまじき頭の悪さと倫理観の低さなのが原因ではあるが、それがまた「誰もが罪を見なかったことにして誰かに尻を拭ってもらいたい」という作品テーマとシンパシーを産んで独自の読み味を形成している。

それの本質が詐欺であることを除けばCFの存在する作中世界には大きな罪悪感や犯罪のトラウマに苦しむ者はおらず極めて穏やかに回っており、読後感の悪さが読者の倫理観のみに委ねられているのが大きな特徴と言える。

直感的な倫理観との乖離と本能的な「無化」への憧れを同時に喚起させる独自の薄気味悪さのある読後感で、「すげー詐欺師に全員騙されてた」ってだけのしょぼい話ながら満足度はかなり高い。

るん(笑)」と同じくSF的なギミック感を求めて読むとガッカリすると思うけど、これはこれでアリな話作りだとは思うので興味があればおすすめ。

むしろSFとして見ると本当に雑なのは気になるポイントだったな。「噂を流すと人の体調までコントロールされる」や「退職者を洗脳することで嘘の情報を流布する」などの裏技が理屈なしでどんどん発動するのは「CFは大したことをしていない企業である」という大オチと反しているように思えた。

読み終わる直前にジャンケットバンクのジャンプラ無料分を読んだら「懺悔するものが求めているのは許しではなく根拠なき同意で肩の荷を下ろすことだ」みたいなことが書いてあったけど、そう考えるとCFは宗教なき免罪符といえるのかもしれない。ルター大激怒。

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