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谷口悟朗作品として観るONE PIECE FILM RED(ネタバレ無し感想)

 ワンピースの映画最新作REDを見終えて、私は映画館で後悔していた。
 監督、谷口悟朗じゃん!?
 えっ……!? なんで誰も教えてくれなかったの!?
 (なお普通に予告で監督名は出ていた)
 (お前が見てないだけ案件)


※この感想は重要なネタバレは外して書いているつもりですが、少しでも展開を匂わせる文章は読みたくないという方は本作鑑賞後に読んで下さい。



 私はワンピースの生粋のファンというわけではない。
 それなのに今作に限って仕事帰りに電車を乗り継いで映画館に観に行こうと思ったのは、仕事であまりにもむしゃくしゃすることがあって、何かスカッとする娯楽を浴びたいと思ったからだった。
 子供の頃は毎週ジャンプを買ってワンピースを読んでいたし、アニメも毎週欠かさず観ていた。
 しかし社会人になってからは自然と離れてしまったものに、疲れ果ててから縋るというのも随分と身勝手なことのように感じたが、とにかく何か、楽しいものに触れたくてスマホで急遽予約を取ったのだ。

 事前に知っていたのは、映画オリジナルキャラクターのウタちゃんという女の子の歌唱担当をAdoさんが務めており、公開前から公式最強夢主として騒がれていたことくらいだ。
 だが私は夢小説はあまり嗜んでこなかったオタクなので、ウタちゃんのシャンクスの娘という設定がどれほど夢文化圏(?)でポピュラーだったのかは分からない。
 そもそも最近のワンピの展開を全然知らないが大丈夫だろうか……とスクリーンが暗くなったところで急に不安になったりもした。

 確かに知らないキャラクターも多かったが、ルフィやナミにゾロといった昔からのキャラクターは当たり前だがちゃんといて、すんなりワンピースの世界に戻れてしまった。
 驚いたのはウタちゃんのライブシーンへの気合の入れ様だ。
 名だたるアーティストたちが提供した楽曲に、充実した作画。そしてウタちゃんの歌唱力。
 何かすごいの始まったぞ!とワクワクしながら観て……観て……中盤あたりでやや雲行きが怪しくなってきた。

 ウタちゃんの言動、すごく……既視感があります。

 いや夢主じゃなくて、似たようなこと言ってる人が登場するアニメ、観たことがあるんだよな……ヒロインではなかったけど……。でもこれワンピだしな、まさかな~。

 そんなことをうっすら感じながらも映画を楽しみ、そして流れるエンディングにスタッフロール。びっくりした。本当にびっくりした。
 監督、谷口悟朗じゃん!?
 なんかガン×ソードっぽいなと思ってたら、そのものだったんか……!?
 ガン×ソードにコードギアス、無限のリヴァイアスにスクライド。
 私は夢小説は嗜まなかったが、その時期のアニメをよく観るタイプのオタクだった。
 言うなれば「子どもの頃の思い出が詰まったワンピース×オタクの私を作った監督」の合わせ技だったのだ、ONE PIECE FILM RED。

 ガン×ソードを観たことのある人なら、私がウタちゃんの言動で誰を思い出したのか、察して頂けると思う。
 冒頭のウタちゃんは明るく華々しい歌姫だが、徐々に彼女の内面が明らかになってくると、その奥底にある怒りと狂気に圧倒されてしまう。そうなるしかない状況だったのだということも合わせて。
 ウタちゃんの持ち歌の中でメインとして扱われているのは、恐らく中田ヤスタカさん製作の『新時代』だと思うのだが、彼女の内面をより表しているのはVaundyさん製作の『逆光』、そしてFAKE TYPE.さん製作の『ウタカタララバイ』だろう。

 どちらも彼女が持つ怒りと狂気が迸っている楽曲で、大好きになってしまった。すみません単に私の曲の好みの問題かもしれない。
 一言で言うと、予想外に好きなタイプの女だったのだ、ウタちゃんが。
 実は最初はウタちゃんの可愛い外見に対して、Adoさんの歌声は強すぎるのでは……などと思案していたのだが、物語が進むにつれてそりゃAdoさんしかいないわこれはと印象が全く変わってしまった。
 理不尽な運命に抗いたい憤りと、自分が犯してしまった取り返しのつかない罪への自暴自棄さ。それでも誰かの幸せの為に歌いたい純真さが、まさに手に負えない女を作り出してしまった。
 しかし彼女があくまでワンピース世界のキャラクターで良かった。完全に谷口悟朗作品の住人だったら、もっととんでもないことになっていたような気がする。

 良くも悪くもパワフルなウタという歌姫の存在に対して、ルフィやシャンクスがどう立ち向かうかが今作の鍵だが、ウタの過去を知る人物ゴードンを演じる津田健次郎さんの名演も素晴らしい。
 ウタちゃんはシャンクスの娘であるのと同時に、ゴードンの娘でもあるのだ。後悔と愛情が絡まり合う終盤の津田健次郎さんの演技が凄かったので、是非劇場で聞いてほしい。

 クライマックスのバトルシーンはまさに総力戦で、これが観たかったんだよ~!と手に汗握ってしまったし、チェンジした衣装が全員格好良すぎて惚れ惚れしてしまった。この衣装センス本当に素晴らしい。

 スカッとする娯楽を浴びたい一心で観に行った映画であったが、こうして感想を書き殴るくらいには見終わったあとやたらと元気になってしまった。
 あと私はこのREDで谷口監督はワンピース初参加だと思い込んでいたのだが、よくよく調べてみるとだいぶ前に製作に関わっていたらしい。

 し、知らなかった……。
 私は前述したとおり、ずっと展開を追い続けてきた生粋のワンピファンというわけではないが、久しぶりに触れたワンピースで最高な気分になれてしまった。
 とりあえず私は原作を読み直して、間に合えば二回目を観に行きたい。
 憂鬱な気分を吹き飛ばしてくれてありがとう、ONE PIECE FILM RED。

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