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遺骨を抱いてシイちゃんは走る「マイ・ブロークン・マリコ/平庫 ワカ」感想


 親友のマリコが自殺したことを、シイノトモヨこと、シイちゃんはテレビで流れるニュースで知った。

 以下はネタバレ満載の感想になりますので、未読の方はご注意下さい。


 女の子同士の親密な結びつきには、どうしても精神的な依存が絡んでしまう。それが思春期真っ盛りの頃なら、なおさら。
 それでも進学や就職を機に互いの世界が広がっていくと依存は解消され、程よく仲のいい友人として付き合えるようになる……気がする。私の経験としては。

 けれど、マリコはそうならなかった。

 恐らく幼少期から親によって虐待を受け、中学生で父親から強姦までされた彼女の自己肯定力は地を這って、自分を助けてくれた唯一の存在であるシイちゃん無しでは生きていけなかったのだ。

 自殺したマリコの遺骨を父親から奪い取り、涙も鼻水も垂れ流しながらシイちゃんは走る。
 この漫画全体に吹き荒れる疾走感の原動力は喪失と焦燥だ。
 厄介で重たい存在だけれど、かけがえのないものを喪ってしまった慟哭と、それを受け入れなくてはいけないという現実が彼女を走らせる。

 マリコはシイちゃんに何を求めていたのだろう。
 自分を不幸にするような男とばかり付き合っていたのは何故だろう。
 そうすればシイちゃんが助けに来てくれると、どこかで考えていたからじゃないだろうか。
 「わたしシイちゃんから生まれたかった」というセリフや、夜行バスで子どものマリコを抱き締めて眠るシーンが象徴的だが、マリコにとってのシイちゃんは、親友であり恋人であり母だった。
 そして狭い家の中で父という強大な存在に苦しめられていたときに、自分の名前を大声で叫びながらドアを叩いて救い出してくれた、唯一のヒーローだったように思う。

 読み返す度に、マリコは本当に自殺するつもりだったのだろうかと考えてしまう。
 薬を飲んで飛び降りて骨折でもすればシイちゃんが病院に駆けつけてくれる、ひょっとしたら飛び降りの瞬間に現れて、手を伸ばしてくれるかもしれないと考えていたのではないか。
 だけどこれは全て読み終えた私の推測に過ぎず、マリコの死の瞬間は描かれていない。
 起きてしまったことが全てで、そこには死という結果だけが残されている。

 シイちゃんことシイノトモヨもまた、家庭に恵まれていたとは言い難い状況で育ったことが作中から察することが出来る。
 働き出した彼女は自活することで精一杯で、とても「ぶっ壊れている」マリコのことを万全にフォローするなんて無理だった筈だ。

 この作品にこんなことを言うのは一番野暮だと分かってはいるが、せめて中学の時点で福祉を頼ってくれていれば…教師や周りの大人の力を借りていれば…とか、どうしても考えてしまう。
 そんなにマリコの死の責任を一人で負わないでほしいと思ってしまったが、彼女がこれからも苦悩することこそがマリコにとっては最高の弔いなのかもしれない。

 遺骨を抱いて走った先のまりがおか岬で、シイちゃんは身知らずの少女を救い、その結果マリコの遺灰を海に撒いてしまう。「彼女」を掴もうとしたシイちゃんも飛び込んで、マリコがいない世界の海でまた目覚め、生きていくことになる。

 ラストシーンは不思議と爽やかで、それでいてざらざらしていて、胸を打つ。最後に届いたマリコからの手紙もやはり「シイちゃん、大好きです。」で結ばれていたのだろうか。

 生きていく上でお互いの存在が絶対に必要だった女性が二人。
 一人になったことを受け入れた後も、彼女たちはきっと二人で生きていくのだろう。

 2022年秋に永野芽郁さん主演で実写映画化が決定しているそうなので、楽しみにしています。

 (追記:映画が公開されたので感想を書きました 2022.10.01)

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