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トヨタ アクアX

10年経過の長期政権
初代は「プリウスの弟版が登場!驚くべき低燃費」などと謳われ、世界中の自動車メディアが注目していたことを思い出した。

プリウスの流れを受け、インテリアの造形の斬新さと外観のクリーンさが際立っていたのがとても印象的だった。
斬新さと鮮度が命のカテゴリゆえ、変化のサイクルも早いのかと思っていたのだが、改良に改良を重ね、まさか10年もの長期政権を維持するとは考えてもみなかった。

それだけ基本設計がしっかりしていたということだろう。
2代目はタイミングがもろもろの事情でズレたこともあり、先行して発売されたヤリスの影に隠れ「こんなのもありますけど…」といった控えめな風情で登場してきた印象だ。
国内専用モデルとなったことも影響していると思う。先代に比べて明らかに扱いが地味なのがちょっと気の毒である。

寂寥感の正体
フロントシートに座る。
あれ? 明らかにヤリスと比べてアンコが安っぽいなと感じる。リアシートの座り心地も同じ印象。どうした?と思わず声が出る。

前衛的なアーティストが作った未来の笹かまぼこみたいな窓のカタチが(先端部分の絞り込みは涙ぐましいほどだ)、シートの座り心地と相俟って後席の閉塞感を強める結果となっているのも残念だ。

そんな気持ちに拍車をかけるのは殺風景なドアの内張の影響もある。
前後とも起伏に乏しく、平板な黒いプラスチックを見繕って事務的?に貼り付けた感じ。
ドアハンドルがどこにあるか一瞬迷うほど凝った造形のヤリスとの差は圧倒的だ。
昭和42年に建てた市役所と最新のイオンモールのくらいの開きがある。
社内で権力闘争でもあったのだろうか? などと余計な心配をしたくなった。

性能にガマンなし
ちょっと寂しい気持ちでSTARTボタンを押して走り始める。ダッシュパネルのみっちりした造りはさすがだ(質感は除く)。
アクセルを踏んでも無音なのはもう慣れた。
それにしても驚くべきスムーズさだ。
なによりもトヨタのハイブリッド車でありがちだった、牛のゲップのような「ボフブルン…」というエンジンの再起動音がまったく聞こえない。
なにも知らない人に「電気自動車です」と言っても信じる滑らかさだ。

日産ノートを意識して採用された「快感ペダル(スキマスイッチの曲名っぽい)」のタッチも乗員が車酔いしないギリギリのレベルの仕上がり。
ボディのキッチリ感も平均点を大きく上回る。
えー、やるじゃん。
普段使いでこれ以上求めるものはないよ。

一点だけ。ステアリング(ペッツのようなスイッチがやたらついている!)の舵がいきなり立ち上がる傾向があるので、高速で直進するときはちょっと気をつけた方がいい。
最近の「走行性能こそ命!」のトヨタ車の中にあって珍しくツメが甘い。惜しい…。
あと、足踏み式のパーキングブレーキ。もういい加減ヤメにしない?

理想像との乖離・伸びしろの期待
おそらく2代目を開発するにあたって、当初からかなり理想的な像が描かれていたのだと思う。
ヤリスと二枚看板で日産ノートを追い落とすぞ、と鼻息も荒かったはずだ。
インテリアの素材も造形も、そこそこ凝った提案があっただろう。
もしかしたら、ワンペダル走行を実現するために採用されたバイポーラ型のニッケル水素バッテリーや、10年分のアップデートを兼ねた数々の安全デバイスの採用などが想定より車両価格を跳ね上げ、結果的にもろもろのパーツのコストを削ぎ落とさざるを得なかったのではないだろうか?
あくまでも素人の推測だけれども。
そんな勘ぐりをしたくなるような点が目についたのは重ね重ね勿体ない。
走行性能がキチンとしている分、惜しさもひとしおだ。

今後、また長いモデルライフを送るのならば、鬼のトヨタのこと、巻き返しを図るべくアップデートをこまめにしてくるに違いない。

昨今のメルセデスのように数年後に乗ったらまったく別物!と驚くこともあるだろう。
そんな期待を含めて、ちょっと長い目で見守る必要があるモデルだと思う。