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ドはドーナツのど~でもいい話
あれはもう、数十年前。
中高一貫カトリックの女学校に通っていた頃のことです。
母校は近隣でお嬢様学校と言われていただけあって、体育祭も、学園祭も、父兄以外立入禁止でした。
とくに、学園祭はチケット制で、生徒は一人2枚のチケットをもらいました。
そのチケットを持った人しか秘密の花園に入ることはできません。
たいていは親兄妹が来るのですが、彼氏を呼ぶつわものもいて、なかなかに楽しく、しかし静かな学園祭なのでした。
入場からそんなふうに厳しかったのですから、催しものにも厳しく、飲食の出店などもってのほかでした。
飲食物は、修道院のシスターたちと保護者会のお母さま方手作りのパウンドケーキやクッキーの販売(異様に美味しい)。
あとは、ダンキンドーナツと飲み物のセット販売。
事前予約制で、普通の飲食店のように当日いきなり買えるほど甘いものではないのです。ドーナツなのに。
で、このダンキンドーナツ。
なんというんでしょうか、アメリカのホームメイドタイプとでも言うんでしょうか。
車輪のように丸く、しっかりした噛み応えがあり、油っぽくないのに香ばしい。
私、大好きで毎年買って食べていました。
ところが、高校2年生になったその年、生徒会が発起して、学園祭が誰でも入場自由になってしまったのです。
青春時代って、ざわざわしてきゃーきゃーしてごみごみしたことを好むから、致し方ないのかもしれません。
しかし、そうなると予約制のダンキンドーナツなんてお役御免。
女子高生が作る、美味しくもない手作りクレープなどが祭りの食べ物になってしまいました。
そんなものでも、女子高生たちは楽しそうにはしゃいでいました。いかにも青春です。
ですが、一つだけ、みんなが入場制限の方が良かったと言った点がありました。
怪しい男性がわんさか入って来たのです。
女子高ならではでしょうけれど、それまでも露出系の痴漢が出没したり、盗撮魔が校内に忍び込んだりなどという犯罪が頻繁に行われていたことが日常的に問題になっていました。
どうやら学園祭におしかけてきたのは、そういった方面の人たちのようでした。
教師が学園内を巡回して目を光らせてはいましたが、それでも。
廊下に立ち尽くして、じっと教室の中を見続ける、腰までのボサボサ長髪の男性などに遭遇したら怖くてしかたなかったものです。
秘密の花畑のなかで大事に大事に育てられてきたお嬢様たちは、自分たちが住む世界には王子様しかいないと思い込んでいたのです。
ですが、門を開いてみると、そこには汚くて危険なものがわんさかあったのです。
それが、少女たちが堅実なドーナツを捨てて、不味いクレープを選んだ代償なのでした。
祭りが終われば、汚れた靴で歩かれた廊下は泥で汚れ、私は床を磨きながら、ダンキンドーナツの清潔な香ばしさを思いやり虚しい気持ちになったのでした。
あれから数十年。
今でもホームメイドタイプのドーナツを見るとしみじみ思いだすのです。
執筆に必要な設備費にさせていただきたいです。