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小詩集・夜明けの徘徊

うたた寝していたら

よなかに冷え込んできた

重ね着しなければ

人生の恥も上塗りしなければ

龝(秋)の夜長に腹がへったな

🐢むだ飯をむさぼる爺もたそがれる龝

寒いね

秋だからね

夜明け前だからね

すこし着こんで散歩しよう

街は静かだ

雀たちと出会うにはまだ早い

僕が僕自身に出会うにも

まだ歴史は熟さない

毒をたっぷり含んだ果実が

僕の意識にふくらむのも

まだまだらしい

だから今の僕は人畜無害

でもやさしい善き人でもない

強い人でもない

風邪をこじらせたら死んでしまう

障がい持ちだ

颯爽とは生きられない

でも生きているのは楽しい

雲に光がにじむ

街に朝がくる

また愚かな歴史をつむぐため

歴史のなかではすべてが未知だ

私は雀たちに

夢も野心も悟りもなにも語らない

雀たちにであえたらただうれしいだけ


私たちは子供のころ

鳥が成層圏の彼方まで飛びつづけ

星になったお話を読んで

この世のやりきれなさを

高く高く飛び続けるしかないのかと

煩悶した

詩人の純粋さに心震わせながら

なぜそんな苦行を強いるのかと問うた


私はよたかのなきがらを

星にするのではなく

森の地面によこたえ

見つめてゆこうと

思索し覚悟した

半世紀をへて詩人に語るあなたはまちがっていましたと


星になったよたかではなく

地に伏すよたかに

わたしは語り続ける

お前の自死は美談なのか

欺瞞なのか

お前が虫の糞となり

腐敗しほこりとなり

世界から消滅しても

人々は神話にとらわれている

わたしは物語の本を投げ棄て

夜の森の深くにあゆむ

悟りをこばみ

涙して果てるため


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