言葉の海
言葉の海。
言海、という辞書がある。
明治に文部省の官命により、大槻文彦が編纂した、初の国語辞典です。文部省は予算不足で、結局大槻個人により出版された。
言葉は海である。すぐれた感覚です。
広さもあれば深さもあり、波もあれば風もふく。未知を秘め、命を育む。天候を左右し、雲をわかせ、雨を降らせ、交易を促し、冒険に誘う。ときに、命を奪う。
航海のためには海図がいる。
安全な水路の境界を示す、みおつくし、が考案される。
見えない海底の危険は、時代と状況により変わる。
機雷が沈められることもある。
航海のマニュアルが作られる。しかし、マニュアルだけで、航海はできない。
言葉の表面的な波に怯え、言葉を忌避する人もいる。波を避けようと、浅瀬に座礁する未熟な船乗りもいる。
言葉は凶器にもなる。
かとおもうと、水しぶきを、兵器だとみなして、弾丸を撃ち返すあわて者もいる。
明治時代、国語がなかった。
近代国民国家としての日本が、まだなかったから。
いかにして国語を統一するか、官僚は知恵をしぼった。そして、辞書の編纂を命じた。
心血を注いで原稿がまとめられた。
しかし、予算が足りず、放置された。
こころざし高くして、結局無責任。いかにも、日本らしい。
挿絵、イギリス風景画の巨匠、ターナーの作品。
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