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昼の無音

 なんだか、まるで、僕が一人になったみたいだ。
 周りの人が話してる声も、車の音も、僕が息してる音も聞こえない。どれだけ足踏みしても、くつ音一つ聞こえない。あれ?なんでだ?
 僕が周りの人が聞こえなくなったみたいに、周りの人も、僕が聞こえなくなったみたいだ。
 お母さんが僕を探してる。となりにいるのになぁ。
 ジャンプして呼んでみるけど、やっぱり、聞こえてないみたいだ。
 困ったなぁ。なんだかすごく寂しいぞ。
 お母さんの袖を引っ張ってみる。道行く人に声をかけてみる。犬のしっぽを掴んでみる。
みんな、僕が聞こえてない。
 多分、自由ってやつだ。僕が何をしても、誰も気づかないし、気にしない。
 わかった途端、怖くなってしまった。
 なんでもできるって、なんにもできないってことなんだと、はじめて知った。
 選択の幅がありすぎる。
 ある程度、幅が決められていないと、人間は迷ってしまうみたいだ。
 僕はその場に立ちすくんだ。胸に手を当てると、心臓がばくばくとはねているのが分かる。相変わらず、何も聞こえない。自由は、与えられっぱなしだ。
 僕、なにをすればいいの?
 怖いよ、お母さん。

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