2週間後

「実は私、2週間後から来たんだよね」
 お昼休み、教室でお弁当を食べていると美咲が言った。
「へえ」

 唐揚げを食べるのに夢中でつい素っ気ない返事をしてしまった。マジでうまい、母さんの手作り唐揚げ。
「あ、信じてない? 信じてないでしょ」

 美咲がバンバンと机を叩いて抗議の意を示す。未来から来た割に私の反応は予想外だったらしい。ダウト。この子は今を生きる普通の女子高生だ。ならここはあえて話に乗るのが良いだろう。

「ごめん、なんかびっくりしちゃって」
「いいよ、証拠を見せてあげる。これメモっときな」

 そういうと美咲はスマホを操作してから画面を私に見せた。画面には岬の手書きの文字で漢字が10個書いてあった。

「なにこれ」
「今日の午後の授業、一発目が国語でしょ。抜き打ちで漢字テストあるんだけど、その答え」「マジ?」

 抜き打ちテストといえば、高校生を恐怖に突き落とす魔のワードランキング(私調べ)で第3位に入る。ちなみに2位は中間テスト、1位はマラソン大会だ。期末テストは殿堂入りしておりランキングには乗らないことになっている。

 美咲は抜き打ちテストの未来予知をしているという。本当だとしたらすごく助かる。美咲の話を信じたわけではないが、漢字はメモしておいても損はないだろう。

 私は箸を置いてメモを取った。事前に言われなければ解答できなそうな漢字が半分くらいある。美咲はいつになく自信満々にこう言った。
「見てな、国語の時間」

 果たして国語の授業が始まると、担任の小林先生はなんの前置きもなく「抜き打ちテストしまーす」と言った。教室のあちこちから不満の声が上がる中、思わず美咲の席の方を振り向くと、彼女は得意そうな表情でピースサインを作っていた。

 国語の授業が終わると美咲が私の席に近づいてきた。
「ほらね、言ったでしょ」
「うん、めっちゃ助かった」
「貸しイチ〜。今度アイス奢ってね」

 その後も美咲は事あるごとに未来を言い当ててみせた。次の日の天気、数学の授業が自習になること、週明けの全校集会での校長先生の話の内容、さらには私の家の夕飯のメニューまで言い当てたのだ。もしかして美咲は本当に2週間後の未来から来たのだろうか。

「美咲、ほんとに未来から来たんだね」
「ウッソ、やっと信じたの? 漢字の抜き打ちテストの時にもう信じてもらえたもんだと思ってた!」
「いやだってこんなの絶対ウソじゃん、普通」

 友達の不思議な力を知ってしまった。こうなると未来のことが聞きたくなってくる。
「ねぇ、今日の午後、文化祭の出し物決めるでしょ。何になるのかな?」
「ああそれ。決まんないよ」
「え、そうなの? やっぱ一回では決まんないよね」
「そういうことじゃなくて、まず話し合いが始まらないの。もうすぐ隕石が落ちて地球がほろびるからね」
「へえ」
「ほら、あそこ見て」

 美咲が窓の外を指差す。慌てて窓の外を見る。美咲が指差す方向をよく見ると、とても小さな点を見つけた。
「あれが隕石だけど、あと15分くらいで落ちて来て地球が滅びるの」
「なんでそんなこと黙ってたの!?」
「いやぁ、これだけはなんか言い出しづらくてね」

 美咲が気まずそうに笑う。空の点は少しずつ大きくなる。窓がガタガタと揺れ出した。

「えぇ…」
 たしかにこんなの予知できたからと言ってどうにかなるものではない。この事実を2週間、一人で抱え続けた美咲の胆力に感心してしまった。

 

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