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10代の頃から家族の介護をする、ヤングケアラー(架橋47号 2022年8月号 寄稿記事)

ヤングケアラーという言葉。最近、メディアで取り上げられる機会も多く、目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。ヤングケアラーとは、本来大人が担うと想定されているような 家事や家族の世話などを日常的に行っている子どものことを言います。

私は介護保険の対象にならない家事・介護を家族に代わってサポートする介護保険外サービス「わたしの看護師さん」をはじめ、昨年度からはヤングケアラーを対象にしたSNS相談窓口を運営しています。

昨年8月から鳥取県と協働してスタートしたLINE相談窓口は、現在、毎日18時〜23時の時間、看護師やケアマネージャー、元ヤングケアラーなど家族の介護経験のある専門職が相談対応を行っています。

厚生労働省が昨年度に行った実態調査では、中学・高校生でおよそ20人に1人がヤングケアラーだと報告されています。1クラスに1人は、家族の介護を日常的に担う子どもがいる、という状態なのです。

鳥取県が同じく昨年度に行った調査では、ヤングケアラーに「当てはまる」と回答した比率は小学5年で1.8%、中学2年で2.0%、高校2年で3.2%でしたが、「ケアラーに該当するかわからない」という回答が小学5年で44.5%、中学2で31.0%、高校2で24.9%あったことから、潜在的な数は調査の数値より多い可能性も示唆されています。ヤングケアラーが望む支援としては、「信頼して見守ってくれる大人がいること」「困ったときに相談できる人・場所があること」という回答が多く、子どもたちが気軽に相談できる場所が必要だと裏付けられる結果でした。

大きな負担を背負っていても「誰にも相談できない」

私が「ヤングケアラー」という言葉を知ったのは今から4年ほど前、一人の若者との出会いからでした。

起業家仲間から、「介護をしている家族を支援しているんでしょ。年齢が若くなるけど、10代で介護している人たちがいるけど、そういう人たちを支援することできるの?」と相談を受けたことがきっかけで、介護業界にいた私自身でさえ、それまではヤングケアラー、若者ケアラーという言葉を知りませんでした。

10代の頃から家族の介護をしていて、勉強する時間が取れなかったり、大学進学を諦め、就職しても介護を理由に仕事をやめざるを得ないーー。ヤングケアラーである子どもたちがすべて同様の悩みを抱えているわけではありませんが、未来をつくる子どもたちが、家族の介護を理由に自分の夢や目標を諦めている現状を知り、驚きと、介護で苦しむ人を助けたいと起業した私としては、何もできていない自分自身に歯がゆい思いを抱きました。

その時に話を聞きながら思い出したのは、私自身も、20代の頃から親戚の介護をしていた日々のことでした。

当時はヤングケアラー、若者ケアラーという言葉もなく、家族が介護をするのは当たり前。幸い私自身は看護師だったので、ある程度介護に関する知識がありました。そのため親戚の介護をしていても、困ったらどの窓口に相談へ行くといいかとか、公的保険はここまで使えるからフル活用しよう、と周囲のサポートを最大限に活用することができました。

それでも、公的保険だけではカバーしきれないことが多く、まだ幼い子どもたちの行事を断念して親戚の病院に付き添うこともありました。また体調の変化や急な呼び出しの電話が24時間関係なくかかってくるため、緊張感を抱えながら過ごす毎日は、今思えば相当なストレスでした。

そんな日々を、10代の頃から経験している人がいるという事実。学校の授業を受けていても、家族のこと、晩ごはんの準備、病院の付き添いなどの家族のケアが頭の片隅に常にある状態では、目の前の勉強に集中できないことは想像に難くありません。家族の日常を守るために自分自身の学校生活、勉強、遊び、自分の将来について考えることを後回しにせざるを得ないーーそんな辛い状況にあるヤングケアラーがいるということを知り、「なんとかしたい」、「世の中に知ってもらわないといけない」と強く思いました。

同じような状況を小学生や中学、高校生の若者が抱えていると思うといても立ってもいられず、まずはYoutubeやTwitterなどのSNSを通じた情報発信をはじめました。すると、難病の家族をケアする高校生、うつ病のお母さんのケアをしている大学生などのヤングケアラーや、「ずっと誰にも相談できませんでした......」と、10代の頃から10数年に渡って介護を続ける若者ケアラーからの相談が届くようになりました。

家族の介護をする高校生や大学生の話を聴く中で気づいたのは、「誰にも相談できない」、「誰に相談したらいいかわからない」という子どもたちが多いことでした。ヤングケアラーの子どもたちはそもそも、自分が「介護をしている」と認識しているケースはあまりありません。

夕飯の支度だけではなく病院の付き添い、排泄の介助を行っていても、家族のお手伝いの延長に捉えている場合があります。加えて、自分の置かれている状況を家族の問題だと考え、「誰かに相談することではない」、「相談したところで変わるとは思わない」と相談に後ろ向きであることが分かりました。多感な時期でもあるため、「まわりと違う」と思われることを避けたいという気持ちもあるでしょう。

そのような背景、繊細な感情を抱く子どもたちに対して「介護の悩みを相談しにきてください」と迫るのは、とても難しい要求に感じられました。であれば、子どもたちにとって身近なツールを活用して接点を作り、会話を重ねながら関係を築き、抱えている状況を一つ一つ整理して、必要な支援へと繋げていく。そんな支援ができないかと考えて立ち上げたのが、LINEを活用した相談窓口です。

介護、家族不和、経済困窮...複数の困難を抱える子どもたち

令和3年8月に鳥取県の「公民連携推進事業補助金」を活用し、試験的にLINEを活用した相談窓口をスタートしました。

結果的には、鳥取県内の中学・高校向けにチラシを配布したり、関係機関を通じた広報やメディア各社の報道、公民館などでヤングケアラー支援に関する講演を続け、8月から翌2月の約7ヶ月の間に、LINE友達登録が120名以上、そのうち35人以上と相談対応を行いました。またLINE登録から数ヶ月たって相談が届くケースもあり、何かがあったときの「お守り」として登録してくれているような方もいました。

相談ケースを分析してみると、ヤングケアラーの子どもたちは、家族のお世話や介護だけが悩みではなく、「親子・家族関係」、「学校生活」、「進路不安」、「経済的な困窮」などいくつかの困難を抱えていることがわかってきました。

例えば、介護に加えて経済的な困窮が見られるケースとして、同居している祖父母の介護をしている方からの相談がありました。経済的理由から介護施設へ入居できず、介護保険のヘルパーも利用していないため、日常的な介護は相談者である子どもが担っていました。加えて、「今月のお金が足りない」という話を親御さんから聞くため、「進学を諦めないといけないのかな......」と、悲痛な悩みを打ち明けてくれました。

このケースでは、NPOが行う現金給付や社会福祉協議会が行っている貸付制度を紹介するなどの支援を他の専門機関と連携しながら行いました。私たちの相談窓口では、自分たちだけで完結するのではなく、抱えている状況や課題が明確になれば、県が展開している支援施策を紹介したり、窓口や民間団体に繋ぐようにしています。

鳥取県は2021年4月から、全国に先駆けてヤングケアラー向けの電話相談窓口を県内3箇所に設置しています。一方で、私自身も娘がいて、普段の様子を見ていると、困りごとがあれば電話ではなくインターネットで検索したり、SNSで呟くことで解決しています。

いきなり自分の悩みごとを慣れない電話を使って大人に話すことには抵抗があるため、まずはLINEのような気軽に使えるツールで関係を築き、状況を整理し、具体的な支援の方向性が見えてきたら専門的な窓口へと繋ぐ、LINE相談窓口はそのような「橋渡し」を担う役割として、既にある相談窓口や支援施策を活かす可能性があると感じています。

ヤングケアラー自身を支える、具体的な支援策が無い

相談窓口を運営する中で感じるヤングケアラー支援の課題は、大きく2つあります。一つは、子どもたちに介護や社会保障制度に関する知識があまりにも無いことです。もちろん、未成年の子どもたちは家族のケアやお金の心配をせずに、大人たちが支えることが大前提かもしれません。ですが事実として、多くのヤングケアラーが本来大人が担うべき介護や経済的な負担を背負っています。介護や経済的な困難に直面した時に、対応の仕方・周囲への頼り方が分からないでは、社会の中で孤立してしまい、負担の多くを子どもが背負うことになってしまいます。そうならないためにも、学校教育の中で介護を含んだライフプランを学び、困難に直面したときに相談する場所、使える制度を知り、対応方法を学ぶ必要があります。

(鳥取環境大学の授業の一貫で、介護・地域福祉を学ぶフィールドワークをコーディネートしました)

もう一つは、基本的に介護保険は高齢者自身に向けたサービスなので、同居している家族、子どもたちを支えるためには使うことができないということです。介護が必要な祖父母と同居している場合、介護保険のヘルパーさんは、介護が必要な祖父母の身体介護と言われる排泄のお世話とか、入浴のお世話などしかできないのです。ヤングケアラーの子どもたちを支える直接的な支援策が少ないため、子どもが背負う負担を軽減する支援策が必要です。まずは期間限定でも構わないので、ヤングケアラーの子どもたちが家事・介護の負担から開放され、休息を取るためのレスパイトケアや定期的に介護のプロが自宅へ伺って介護負担を軽減するための制度をつくることが必要だと考えます。

少子高齢化がますます進み、隣近所の関係も希薄化している時代において、「家族を介護するのは当たり前」という考えでは限界があります。

一昔前は「家族のお手伝いをしていて偉いね」と、ヤングケアラーの抱える問題は美徳として片付けられていました。ですが、家の手伝いとヤングケアラーの置かれている状況は全く異なります。例えば、友達との遊びの予定が入ったら「今日は出来ないからまた明日やる!」と断ることができるのがお手伝いです。お手伝いは「今日やらない」、「後でやる」ことができますが、ヤングケアラーはそうではありません。自分が断ってしまうと家族の生活が成り立たなくなってしまう。そんな、逃げることができない役割を子どもたちは背負わされているのです。

子どもが子どもらしくあるために

ヤングケアラーを支えることは、「まちづくり」にも繋がります。介護を理由に学業に励むことができず、決まった仕事に就けなかったり働けない状況が続けば、本人や家族の生活は不安定になるでしょう。そればかりか、働くことができる人が減れば人手不足に苦しむ企業が増え、企業は新しい取り組みを生み出す余裕が無くなり、私たちが住む地域全体の活力は失われてしまいます。

また、介護で大変な思いをしている人たちは年代を問わずたくさんいます。ヤングケアラーである子どもたちが希望を持てる社会は、40代や50代の、これから親の介護を迎える現役世代にとっても明るく介護に向き合える社会になるはずです。実はヤングケアラーの問題と私たちの生活は、地続きに繋がっているのです。

私たちは今年度、LINE相談窓口の他に月1回ほどのペースでヤングケアラーの方が相談・交流できるオンラインサロン、支援者向けの講演会やシンポジウムを開催することを計画しています。

子どもが子どもらしく、日常を過ごすことができるように。誰もが前向きに介護と向き合うことができるように。本稿でヤングケアラーのことを知り、「なんとかしたい」、「ヤングケアラーについて知ってほしい!」と思ってくださった方、SNSなどでシェアをしたり、まわりの方へ知らせてくださると嬉しいです。講演会などの企画があれば、お声がけくだされば(できる限り)飛んで駆けつけます。私たち一人ひとりの大人たちがヤングケアラーを知ることで、支援の輪は確実に広がり、子どもたちを助ける政策に繋がると信じています。

発行:公益財団法人 鳥取市人権情報センター
架橋:47号 2022年8月号
※この原稿は、「架橋」に寄稿した内容を、転載許可を得た上でnoteにも掲載しています。

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