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町田ゼルビアvsアルビレックス新潟 レビュー

6/1(土)15:00 J1第17節 町田GIONスタジアム
[結果] 町田ゼルビア 1 - 3 アルビレックス新潟
得点者:24' 小見洋太(新潟)
    27' 藤尾翔太(町田)
    45' 藤原奏哉(新潟)
    52' オウンゴール(新潟)

初期配置

町田はスタートポジション4-4-2。
新潟は4-2-3-1。
町田は現在勝ち点35で1位をひた走っている。
対する新潟は現在16位。
1試合平均パス数1位の新潟(612.6)と、最下位の町田(313.1)。
対照的な両チームの対戦。

現地観戦後、DAZNで見返したので
戦術的ポイントと展開を自分なりに記してみる。


① 立ち上がり〜新潟のビルドアップに対する町田の修正

新潟は保持ターム、ボランチの奥村が列上げ&長倉がインサイドハーフ化する
4-1-4-1を形成。秋山が1アンカーとなり相手2トップのゲート間に構える。

新潟のゴールキックリスタートに対して町田は最序盤、ボランチの仙頭を前に出して秋山を捕まえに行く。
ここで瞬間的に中盤で3対2の数的優位が生まれる。
そこを見逃さない小島はロブパスを長倉や鈴木に当て前進する場面も。
どこが空いているのかをチーム全体が把握し、活用するという新潟の狙いが見える。

序盤町田のハイプレスに対する新潟の出口


何度か空いている選手を使われて新潟の前進を許していた町田はすぐにプレスの掛け方を変更。
2ボランチは中盤にステイし、アンカーの秋山に対しては2トップが背中で消しながらCBに寄せる形を採用してきた。
これにより、新潟は最序盤より最終ラインでボールは持てるがその先の出しどころが無く、ロングボールで逃げるという選択が多くなり、徐々に町田の保持タームが増え、ペースを握っていく。

町田のプレス修正

②町田お得意「対角のロングボール&ロングスロー」

町田ゼルビアのビルドアップはハッキリしている。
まず両CBが開いて角度を作り、SBが高い位置を取る。
前線は両WGが内に絞り4トップ化。相手SBを内に絞らせる。
そこから対角目掛けてロングボールを蹴り込み、そのこぼれ球に対してカウンタープレス気味に全体が押し上げてくる。
身長194cmの韓国代表CFオセフンが新潟のCB-SB間に配置しロングボールを呼び込む形も多く見られた。
新潟がタッチラインに逃げると、飛んでくるのはお得意のロングスロー。
スローインはオフサイドがなく、どうしても相手はラインを下げざるを得ない。
町田ロングスローは、ボックス内ニアに長身の選手を密集させ大外やマイナスにこぼれを作る。新潟は弾き返すのがやっとで、こぼれ球を町田に即時奪回され二次攻撃・三次攻撃を受ける厳しい展開。

町田ビルドアップ

③町田優勢の中から生まれた新潟の先制点

町田ゼルビアが対角のロングボールを多用し押し込む展開が続いた前半24分、
流れとは裏腹にアルビレックス新潟が先制点を上げる。
このシーンを分析していく。

始まりは町田のロングボールから。
左SB林がプレスに来た新潟のCF鈴木を外し、左に流れていた仙頭に渡す。
仙頭はダイレクトで同サイドのオセフンへふんわりとしたロングボールを蹴る。
オセフンが逸らしたボールを前線の平河・藤本が狙う。
町田ゼルビアお得意の形だ。

この攻撃に対して新潟は右SB藤原が上手く体を入れてなんとかボール奪取。
素早く近くのボランチ秋山に渡し、秋山は右サイドでフリーの小見にはたく。
ここでポイントなのは、町田は自分たちの狙い通りロングボールを使用し攻撃に出て行っていたということだ。前線4人は4トップ化して裏を狙っていたし、加えて左SBの林も高い位置を取っていた。
そのためボランチの仙頭は左サイドのカバーを行わなければならず、
これにより小見の内へのドリブルコースが空いてしまった。
小見はプレスバックに来るオセフンの前に入り、内にドリブル。
そして長倉に当ててそのままCB間のスペースにランニング。
最終的に戻ってきたディフェンスのクリアがラストパスのようになる形でゴール前まで侵入しGKとの1対1を制したが、
良くないポジションを取っていたチャンミンギュと昌子の間にできていたスペースを見つけてランニングを続けた小見のプレー選択と走力が生み出したゴールと言える。
町田からすると、自分たちの時間帯を作り狙いを持って攻撃に出て行ったところを逆にトランジションでひっくり返されてしまったのはとても痛かった。


新潟の先制点

④町田の同点弾〜その後の展開

新潟先制点の直後、町田の同点弾が決まる。
新潟コーナーキックのこぼれ球を拾った町田ゼルビアは一気に選手が押し上げ
ロングカウンター発動。
新潟は小見が外のパスコースを切りながらボールホルダー藤本に寄せ一度は潰したが、再度こぼれを拾われサイドハーフの平河へボールが渡る。
平河は対応する相手SBの股を通す技ありのパスでゴール前に走り込んだ藤尾にアシスト。
このカウンターの場面で新潟のトーマスデンは、
川俣主審と接触したことにより戻りが遅れ、ボールに触れなかった。
主審は自らの存在がプレーに影響を与えたと判断すればプレーを止めることができるが、一度流してしまうとVARが介入したとしても遡ってノーゴールにすることは確かに難しく、結果ゴールは認められた。
小見が上手くボールに寄せフィルターをかけれていたので、アルビレックス新潟からすると先制点直後に不運な失点を喫してしまった。


町田が同点に追いついてからは、両チームの良さと狙いが相互に見られた。
町田ゼルビアは引き続き対角のロングボールをオセフンに当てそこに全体が押し上げてくる。
対するアルビレックス新潟は、町田が序盤よりもミドルゾーンで構えることが多くなったため落ち着いて保持の時間も確保できるようになる。
図は39分のシーン。
新潟はゾーン2までボールを運べると、アンカーの秋山が真ん中に降り後方3バックを形成(いわゆるダウンスリー)。
ハーフスペースに位置する奥村はマーカーの柴戸を引きつけライン間を空ける。
相手SBとCBの間のゲートへ斜めのランニングした谷口に最終ラインからロングボール。
そのこぼれを長倉がダイレクトで振り抜いた。
惜しくもシュートはキーパー正面だったが、チーム全体の攻撃の設計と狙いが見える場面だった。

前半39分新潟チャンスシーン

⑤新潟の勝ち越し点〜紙一重の攻防〜

互いに良さを出し一進一退の攻防が続いていた中、前半45分新潟の勝ち越し点が再びトランジションから生まれる。
町田右CBチャンミンギュがボールを持った際、新潟の谷口が相手SBを消しながら外切りでプレスをかける。
チャンは平河へ縦パスを送るが、これが右側にずれ、早川がスライディングでパスカット。
そのボールが谷口に渡り、サイド流れした長倉へ。
長倉はペナルティエリア内でドリブルを仕掛け再びマイナスの谷口へ。
ダイレクトシュートはディフェンスに防がれるが、大外に詰めていた右SB藤原が詰めてゴール。
谷口がカバーシャドウでうまく背後を消しながら相手のミスを誘発し、
守→攻の素早い切り替えで全体が押し上げ、町田ディフェンスを後手に回らせた。
この場面、谷口が背後で消していた鈴木はフリーだったため、
チャンミンギュの縦パスが平河の足元にバシッと入り、鈴木に1タッチで落とされていたら一気にひっくり返されてピンチになっていた可能性が高い。
本当に紙一重の攻防であった。
また町田ゼルビアからすると、長倉のドリブル侵入時に昌子だけが深くラインを取っていたために最終的にオフサイドが取れなかった。
1失点目のシーンでもそうだったが、ネガティブトランジション(攻撃→守備の切り替え)時の2CBの連携には問題があると感じた。

新潟勝ち越し点

この後コーナーキックなどで町田のチャンスシーンがあったが、
スコアは動かず前半終了。


⑥後半開始〜新潟追加点

後半開始。
町田ゼルビアは左サイドハーフ藤本に替えて
ナサンホを投入。

新潟がボール保持からアンカーの秋山が列上げしてサイド攻撃に複数人が絡み突破を試みる等「らしさ」を見せると、町田もボールを奪ってからの素早いカウンターを繰り出す。
そんな攻防からスタートした後半であったが、
早い時間帯に新潟の追加点が生まれる。

左外で獲得したフリーキックを秋山が
相手GKの届かないニアゾーンに蹴ると、
町田DFチャンミンギュに触れオウンゴールを誘発。
試合後の会見で松橋監督が語っていたように、
セットプレーコーチのスカウティングにより
あのゾーンに速いボールを蹴り込むことをチームとして狙っていたようだ。
セットプレーから相手のウィークポイントをつきしたたかに追加点をあげるという、本来町田のやりたい事を逆にやってみせた新潟。

今シーズン初の3失点目を喫してしまった町田は、この後3枚替えをして攻勢を強める。

⑦町田ゼルビア選手交代からの猛攻

後半14分 町田ゼルビア選手交代
オセフン→エリキ
仙頭→荒木
鈴木→望月

この交代から4分後、この効果が早速決定機を生む。
望月が最前線大外まで上がり新潟の左SH谷口を押し下げてピン留め。
5トップ化(6トップとも言える)した前線左ハーフスペースにポジションするナサンホが降り、最終ラインからボールを引き出す。
アプローチしてきた秋山を感じたナサンホは、少しマイナスに持ち出して大外のギャップにランニングした平河へドンピシャのロブパス。
平河は完璧なファーストタッチからシュートを放ったがこれは惜しくもポストを叩き、
そのこぼれ球に対して町田の選手が詰めるも
早川が身体を張ってなんとかゴールを死守した。

後半18分町田決定機

後半28分 町田選手交代
藤尾→デューク
後半34分 新潟選手交代
早川→堀米
秋山→島田

更に選手を投入して右サイドの望月目掛けてのロングボールから起点を作り、逆サイドまで選手が押し上げてくる町田ゼルビア。
それに対して新潟も選手を入れ替え、左サイドハーフを最終ラインまで下げ5バック化(時には6バック化)して試合をクローズしにいく。
押し込まれる展開が続いた新潟だったが、保持ターム時には小島のロブパスから始まる前進の形もところどころで作り、攻撃を受けるだけにはならない。
町田のロングボール戦術に対してもゴール前や球際で身体を張り決定機を作らせずそのまま試合終了。
町田は7試合ぶり今季4敗目で、連勝が3で止まった。
新潟は首位相手に3試合ぶりの勝利を上げた。

町田終盤の攻勢

総評

勝利したアルビレックス新潟は内容も素晴らしかった。
ただボールを持つだけではなく、時には対角のロングフィードと裏抜けを合わせ
町田のプレスを空転させていたし、トランジションでの強度・球際での戦いで町田の1枚上を行っており、相手が本来やりたいことをひっくり返してやり返すというような展開を見せた。
勿論得意のボール保持タームにおいてもチーム全体としてどこが空いているかを把握し、その優位性を次の局面に活かすことができていた。
相手プレスを引き込んでの擬似カウンター気味のビルド、
FWタイプの両サイドハーフによる斜めのランニング、ボールを奪った際の守→攻へのチーム全体の押し上げなど、
保持・非保持両局面においてチームとしての幅を見せてくれた。

一方敗れた町田は紙一重のところで相手にひっくり返されてしまい、今季ワーストの3失点。それでも前半序盤のロングフィード&ロングスローで相手を押し込む展開は脅威であったし、カウンター時の個々の走力も鋭い。
ロングボール・ロングスロー戦術により批判されることも多いと思うが、チーム全体としてのやりたいことが伝わるし、それを遂行するためのクオリティを持った選手を揃えているなと改めて感じた。
このような戦術に対してどう対抗していくかが日本サッカーの未来にも繋がると思うし、町田が現在首位に立っていることには確実に理由がある。
そのような観点でも、今回保持型の新潟が町田を下した意味合いは大きい。
今後も両チームの試合は可能な限り追っていこうと思う。


〜印象に残った選手評価〜

①新潟DF25 藤原奏哉 
ゴール1  地上戦7/12  空中戦3/4  クリア7  インターセプト3
トランジション能力が高い。先制点の場面は藤原のボール奪取からであったし、そこからのプレー選択も良かった。
得点シーンでは、味方がボールを奪った際最終ラインにいたと思うのだが、最後に大外まで詰めているのは走力とプレー選択が秀でている証拠。
ボールプレーにおいても持ち出して配給することができるし、ボールを持っていない時のポジションも良い。少し内に入ってCBから大外へのパスコースを導くことができていた。攻守両面において空間察知能力が高いのだろう。
上背はないが守備時の準備と読みも良く、球際で戦えていた。

②新潟MF6 秋山裕紀
パス50/53(93%)地上戦3/5
スタッツには中々現れないが、攻守両面において効きまくっていた。
保持時は1アンカーとして相手2トップ間に構えボールを引き込み、サイド攻撃に呼応するように列上げ。
町田のカウンターに対してのフィルターにもなっていたし、そこで奪い切るフィジカル能力もある。キック精度も高い。
まだ23歳であるが、欧州帰りのベテランのようなプレーをしている。

③新潟MF16 小見洋太
ゴール1  ドリブル2/2 走行距離11.478km
待望の今季Jリーグ初ゴール。ゴールシーンに代表されるようにスペースを見つける能力が高く、そこにランニングを繰り返せる走力と運動量を持ち合わせている。
引いてきてボールを受けて時間を作ったり、ハーフスペースにランニングし起点になったりもしていた。

④新潟FW27 長倉幹樹
キーパス2 ボールタッチ37
一つ一つの動き、ボールタッチにセンスを感じさせる。
ワンタッチで入れ替わったり、相手の逆重心を取ったり、中盤で浮いて縦パスを引き取ったり、空いているサイドのスペースを素早く見つけてランニングしたり。
今外せない選手の一人だと思う。

⑤新潟GK1 小島亨介
セーブ2 ロングパス12/25
キックがとにかく上手い。特に対空時間の長いロブパス。
相手がどうプレスをかけてきていてどこの味方が空いているのかの認知が素晴らしく、そこにつける確かな技術も持ち合わせている。
相手FWが寄せてきていても常に落ち着いていて、下手にタッチラインに逃げることはまずない。
セービングは基本に忠実で、ポジションや処理を間違えない。
日本代表が保持型のサッカーを志向するのであれば、メンバーに食い込んでくる可能性のあるゴールキーパー。

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