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漁る と 集める

貝の話ではありません。

インフルエンサーとインフルエンザの違いがわからないほど、この言葉の意味を理解していない。だから、インフルエンサーって、つまり、なに?って気になった。


週末、恋人の家で朝ごはんを食べた。サンデーモーニングとともに。

彼はスポーツニュースが大好きだ。特に、野球に目がない。だから日曜日は、サンデーモーニングを必ず見る。スポーツコーナーだけは決して外さない。そして、テレビを見てあれやこれや思いを巡らすのだ。

時折、《これ、後で絶対ネットで書かれるよー!今ごろみんなTwitterに呟いてるよー!》と叫ぶ。昨日の彼も、同じであった。また叫んでるな〜、と思って眺めていた。そんな日曜の朝。


その後私たちは、パンケーキを食べに、長旅へと出た。といっても距離はそう遠くない。ただ移動手段が徒歩だから時間がかかる。

休憩地点で、彼はスマホをチェックする。これはメールやLINEの確認をしているのではない。見るのはネットのスポーツニュース。そして、《今朝のサンデーモーニングのこと、言ってる人まだいなかったな。》とつぶやく。 “まだ” 出てきていないだけで、これから必ず記事になると思いたいのだな。私は彼に一瞥をやって歩き出す。


パンケーキ屋さんに到着。ふわふわスフレパンケーキがやってくるのを待っている間、スマホで検索タイムが始まった。(私はグーグル先生に、彼はヤホーさんに教えてもらってる)

私たちはアメリカンコーヒーについて調べていたはずだったけれど、彼はなんと、スポーツニュースを見ていた。(同じテーマについて調査してると信じていたのに。私だけだったことに気づいたあの虚無感をなんと表現したらいいか…。平然な顔でやってのけるから末恐ろしい。)

ネットのスポーツニュースをスイスイする彼は嬉しそう。《ほら、やっぱり今日のサンデーモーニングのこと出てたよ。俺とおんなじこと言ってたよ。》

やっと見つけたのだなと思い、私は彼の顔を眺める。満足そうな顔。心なしか頬が高揚している。(これは花粉のせいか、似つかわない場所に緊張していたのかもしれない)

共感者がいるって、こんなにも嬉しいことなのか。今日も平和だ。店員さんが、私のふわふわスフレパンケーキタワーを持ってこちらに近づいてくるのが見えた。


昨日の彼がしていたことは、つまり、漁るってことだと思う。情報を漁って、漁って、同じ思いをもつ者、意見を探し出す。共感者を見付けてにんまりするなり、いいね!するなり、シェアするなりする。

これは、小さな喜びを見つけられるところが良い。孤独感に浸りきっていたとき、私がまさにぽつんと一軒家、なんて気分だったときは、私も漁ることで安心感や嬉しさを得ていた。

だけど、漁るのは労力がいる。時間をかけて、探し出す手間をかけて、やっとの思いで見つけ出した情報は、確かなのかどうかわからない。私と同じ!と思う意見のそばには、私と違う!という意見もある。意図せず、その意見の矛先が自分に向いてくることだってある。見ないようにしても、刺さった針はちょっと痛い。すぐ抜くことはできるけれど。


だったら、集めたらいいんじゃないか、と思った。手を挙げて、旗を立てて、ここにこんな意見をもった人がいますよーと、台に上がって立ってみる。

そしたら、俺も同じ!私も!という人が集まってくるのではないか。そうすれば、必死に情報の沼をもがき回らなくとも、簡単に共感者を見つけられるのではないか。

もしかしたら、私は違う意見です!という人が寄ってくるかもしれない。それはそれで、いい。私はこれ!と手を挙げただけなので、あぁ、あなたはそっちだったのね、ぐらいに思うだろう。

はたまた、それは間違った意見だ!手を下げろ!と非難する人まで集まってきてしまうかもしれない。それはそれで、仕方ない。立ち上がるということは、そういうことだ。周りからよく見えるから標的になりやすい。でも、立っていれば周りがよく見える。同じ目線ではわからないことも1つ上の立ち位置から見ると、理解できることがある。あなたの意見も理解できる、が、私は違います、と伝えたらいいと思う。


この集めるという行動が、インフルエンサーの発端なんじゃないか。

共感者を集めるために手を挙げるという行動がたくさんの人を集め、流行を巻き起こすに至ったという結果をもつ人が、インフルエンサーの称号を得てテレビなんかで取り上げられるのだろう。

私は共感者がたくさんいると嬉しい。あらゆる場面で、そうだよね!ね!ね!、わかる〜!ということをしていたいのだ。

だから、漁るより手っ取り早い、集めるを選んでみようと思う。

人差し指をぴんと伸ばして、じーっと、トンボがやってくるのをただじーっと待つ子どもみたいに、まずは手を挙げてみようと思う。

(トンボはなぜか差し出した人差し指ではなく、肩や帽子に止まってたりする)