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東日本大震災の苦難を超越する未来に向けて〜映画『天間荘の三姉妹』レビュー

本篇劇場公開、東映系としてはロングランだったにもかかわらず諸事情あって見逃し,このたびの配信開始で遅まきながら鑑賞。物語の骨格は、古来から語り継がれる所謂「根の国」伝説だが、不明を恥じるばかりながら人気漫画の映画化とのこと。朝ドラ『あまちゃん』で東北にあっては唯一絶対的存在となったのんの、いずれ代表作の一本として位置付けられること間違いない、重要なメッセージ溢れる佳品である。
寺島しのぶ、三田佳子、大島優子,門脇麦という当代の芸達者に囲まれ、どことなく生硬な印象の演技が、そのまま主人公の、この地に誘われた違和感や戸惑う姿に重なり作中人物設定の説得力にも繋がったいる。非現実と現実とがエピソードごとに行き来して、今を生きる人々の後悔や悲しみが静かに語られ、その静かさゆえに払いがたい深さの描出になっている。10年以上が経過するのに、五輪だの原発再稼働、汚染水放出だの、挙げ句の果てに防衛という曖昧表現で包み隠した軍事力増強、殺傷武器輸出解禁に公金をつぎ込み、いまなお東北完全復旧を実現させない国への憤怒へと思いを致す仕上がり。単なるファンタジーではすまされない深刻、重大な主題の通底に胸痛む。未曾有の天災に理不尽にも時間を断たれた亡き人たちの深く重い心残りを、のん扮する小川たまえが生の世界に回帰することで、代弁者となるという仕立ては、自ら肩書きを俳優・アーティストと宣言したのんの今と見事に重なっている。資料を見ると、原作キャラクターそもそもからしてのんをイメージしてデザインされたとのこと。天野秋とともに小川たまえを大切に語り継ぐことで、東日本大震災によりもたらされた苦難の克服超越を強い意志をもって実現しなければならないと背中を押されること必至。エンディングのイルカの背に乗り笑顔で舞い上がる主人公と一体化した未来を志向するのんのストップモーションが鮮やかに心に染みて印象的である。レンタル,配信開始のこの機に,より多くの人々の鑑賞,享受を期待したい。

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