それはないんじゃないかな。〜宮﨑駿監督新作『君たちはどう生きるか』レビュー
それはお前の勝手な思い込みだろう。そう言われてしまえば返す言葉もない。しかしタイトルを聞けば、読書愛好家は誰だって吉野源三郎の名著の映画化だと思う。期待する。ところが同作は、同名の別物。なるほどエンドロールで、監督、脚本とあわせて「原作」!宮﨑駿と明示されていた。だったら、予めそう教えて欲しかった。あえて事前情報を流さず、引退宣言を覆しての10年ぶりの新作ですよ。直前の2017年から翌年にかけてマガジンハウスが漫画化して200万部の大ベストセラーという露払いがあれば、どうしたってどんな風に捌いたのだろうと心浮き立つのは当然でしょ。新海誠の『君の名を。』を菊田一夫の傑作の映画化と思い込んだ者は、おそらくほぼいない。句点のあるなしではなく、そう思わせるものも期待をいだかせるものもまるでなかった。・・・と、あれこれ言っても仕方がない。そう言えば前作『風立ちぬ』も堀辰雄の文学世界とは全く異なるものだった。それでも題材とはして敬意を払ってクレジットしていたはずである。・・・。
さて、本篇。個人的には既視感満載で、あえて引退宣言を覆して取り組んだ理由が分からない。初見,第一印象では、そのことを納得させられるような新味、創造性は感取できなかった。傑作ナウシカやトトロを超えるはずもなし。『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』の延長線上にあって、いくらか前作『風立ちぬ』の時代感を加味した、所謂冒険活劇。ワクワク感がないわけではない。エンドロールに、今をときめく菅田将暉とともにキムタクだのあいみょんだのの名が、小林薫、大竹しのぶ、火野正平などのいかにもというメンバーと並び、へぇ、と思わされ、ジブリ、宮﨑駿監督のキャスティング力にもあらためて感服させられる。それでも、やはり、そうと知っていたら、こんなに急いで期待感もって観には来なかった。
主人公は、母の遺した吉野源三郎の同書を大切にしていて、大はついているものの叔父が登場し、友情が大事というのだから、それで十分だろう、と言うスタンスを認めない、とは言わない。原作は、それで「君たちは、どう生きるか」と問いかけ終わるわけだから、本作こそ、宮﨑駿のそれへ回答なんだと受けとめるのが大人の態度なのだろう。ならばと自分に言い聞かせて終映後パンフレットを買おうと売店に立ち寄ったら、現時点での同作のパンフレット発売はありません、後日オンラインもしくは劇場で、との告知,ペラ一枚。売り切れならともかく,後発だなんて、それはないんじゃないかな、という感想で劇場を後にしたことだった。
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