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吉田大八監督による筒井康隆ワールドの見事な映画化:映画『敵』レビュー

 第37回東京国際映画祭コンベンション部門に出品された吉田大八監督・脚本の『敵』は、筒井康隆の同名長編原作を、映像処理巧みに見事に映画化した佳品である。主演の長塚京三による退官仏文大学教授渡辺のキャラクターデザイン、間然するところなく、他のどの俳優にも代替不能の素晴らしい存在感。演じぶり説得力豊かで、主演男優賞を獲得してもおかしくない。
 モノクロの選択はおそらく監督の意向であろうが、それにより現実と非現実との境界の曖昧さが鮮やかに炙り出され、観る側は各人なりに色彩を施せる。ある一定の年齢以上の鑑賞者は、みな一様に首肯しつつ110分の時空を共にするはずである。原作力に拠るところも大ながら、吉田大八監督が筒井康隆ワールドを誠意と敬意とをもって映像化している。教え子を演じる瀧内公美、現役仏文学生の河合優美、友人役の松尾貴史ほか、共演者いずれも納得の立ち居振る舞いで違和感なく、物語を通して描出される普遍性が切実に胸内に迫ってくる。一瞬のメタファーをインサートする幕切れも秀逸。
 全国公開は年明け一月予定。

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