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映画『西部戦線異状なし』レビュー:リメイク近作に異議あり!

昨年公開され、Netflixでも早々に配信された『西部戦線異状なし』が高評価である。しかし、本作には、レマルクの原作がそもそも有していて、第3回アカデミー賞の作品賞、監督賞を受賞した1930年のパラマウント作品が古典と称されている最も重要な根本が欠如している。
1930年作は往年の映画青年たちにとって観るべき基本の一本で、National Film Registryに永久保存されている所謂映画遺産である。今回、ドイツ語で製作されたことは意義深いし、いまのタイミングで反戦映画がリメイクされることの重さも理解できる。原作にはない停戦協定の場が盛り込まれたことも脚色として認めよう。描かれる戦闘シーンもリアルで、いま現実世界で展開している戦争そのものの理不尽さを世にあらためて再認識させるには十分である。
しかし、今なぜレマルクなのか。その視点で本作を鑑賞したとき、反戦のメッセージは重要だが、その悲惨さを訴え得るこれだけの映像力があるなら、別の作品であってもよかったではないか。本作に描かれなかった原作やオリジナル映画にあった最重要点を照らし合わせ、ため息をつくばかりなのである。
原作の一人称の語り手であるパウルの帰還しての疎外感なく、それどころか、彼が語り終えた後の作者と思しき書き手による物語のタイトルとなった1930年作の名高い蝶々のシーンに反映された物語の肝となる一節なくして、なんのレマルク、『西部戦線異状なし』だろう。どんなに仕上がりが立派でも、原作があり、その名を冠する限り、踏まえるべき基本線を割愛してはならない。

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