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【危機管理】宮崎県日南市で地震に遭った私が思う。災害時のリーダーの役割

8月8日16時43分に「宮崎県日向灘を震源とする地震」が発生しました。
私はその頃、日南市油津の堀川運河沿いのお店で女性店主と話していました。幸いにも、私も女性もけがを負うことはなく、安全な場所に避難した後、自身の安全をSNS上で報告し、その後はインターネット上で情報収集に努めました。

地震の影響で瓦が落ちた現場 油津商店街

地震が起きて、まず考えたのは、津波が来るかどうか。そして、家族が無事か、自宅に被害が出ていないかなどでした。
私は外出中だったため、テレビで情報をつかむこともできず、頼りにできるのは、手元にあるスマホだけでした。今回は、平日の夕方に起こった地震ということで、買い物や仕事などで、同じように外出中だった方も多かったのではないでしょうか。

そんな状況の中で、必要なのは、行政や報道機関から出される正しい情報です。
特に、大きな地震が起きて、不安に思っている中で、自治体のリーダーからすぐに情報発信や声かけがあることはとても大事だと考えます。
新聞記者として災害時の取材も経験してきた私ですが、今回の日南市の情報発信については少し思うことがありました。


なぜ記者会見をしなかったのか

どうして、地震が起きた後に、記者会見をしなかったのでしょうか。
現在の被害状況を正確にメッセージとして発信し、被害に遭った方、一人暮らしなどで不安に思っている方たちに「大丈夫ですよ」「何かあればすぐに市に言ってください」「一つ一つしっかりと対応していきます」などと声をかけることができていたら、どれだけの人たちが救われていたでしょうか。
後にも書きますが、全世代的に災害のときはテレビの情報が頼りにされています。スマホを使い慣れない高齢者の方は特にそうです。
今回、NHKをはじめ各社の動きは迅速で、次の日には県内のテレビ局に限らずあらゆるメディアが日南市に集結していたのです。
私も地震翌日に油津商店街の被害状況を確認したところ、TBSとNHKのクルーとすれ違いました。
あれだけ、日南市内にメディアが集まることはものすごく稀です。
だからこそ、そのタイミングで記者会見を開いていれば、その日は1日中、テレビで情報発信をしてもらえたのではないでしょうか。
もちろん、どの部分を切り抜くのかは、メディアの自由です。
しかし、報道も戦略的に活用しながら、しっかりと力強いメッセージをリーダーが発するべきだったと考えます。
ホームページや市の公式ラインなどで、PDF1枚の市長メッセージが発信されましたが、今回それだけではあまりに寂しい対応だったのではないでしょうか。

なぜXで発信しないのか

防災用品の販売などを手掛ける「ミドリ安全」が2023年、地震や火事などの緊急災害発生時に、どのメディアで情報を得ることが多いかを調査しました。
全世代の合計だと、最も多かった回答は「テレビ(57.5%)」で、次いで「ヤフーニュースなどのポータルサイト(41.2%)」「X(旧Twitter)(33.8%)」と続きました。世代別に見ると、いまの若者たちZ世代では「X」が51.6%と最も多く、X が災害時の重要な情報収集ツールとして使われていることが分かります。

1位、2位のテレビやヤフーニュースなどのポータルサイトは行政が運用できないので、行政が運用できるツールとしてはXがもっとも人々に届くメディアなのです。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000081.000011153.html

しかし、日南市は今回の災害の情報を、Xで発信していません。
市民はもちろんのこと、仕事などで一時的に市内を離れていた人、市内に家族や親せきがいる人など、さまざまな人がX上で「日南市」と検索したはずです。
こうした中で日南市の公式情報が出てこないことは、市民はもちろん、市外から心配をしている人の不安をあおりかねません。
その点、宮崎市では、行政はもちろん、清山市長自ら、積極的に投稿していたと感じました。

Xで積極的に発信していた清山市長

また、日頃から見ているSNSと、市の公式のホームページでは、どちらにアクセスする機会が多いでしょうか。
災害時、普段見慣れていないホームページに自らアクセスし、必要な情報を取りに行くのは、ハードルが高いとも考えられます。
少なくともホームページで公開するだけでは効果的に情報発信ができたとは言えないでしょう。

なぜエリアメールを使わないのか

今回は、40年ぶりのマグニチュード7・0以上の日向灘を震源とする大地震です。
こうしたきわめて特殊な状況であれば、一斉に市民にショートメッセージを配信するエリアメールを使ってもよかったのではないでしょうか。

高齢者であってもほとんどの人がスマホやガラケーを所有している時代です。
市では防災ラジオを全戸配布していますが、それでもすべての家庭に設置されているとまではいえない状況です。
また防災ラジオは家の中にいないと聞くことができません。
だからこそ、家にいなくても誰もがポケットに入れている携帯電話を利用してエリアメールを発信すればよかったのではないでしょうか。

ホームページをもっと分かりやすく


情報の本質はシンプルさ
です。
情報を伝えるのには、分かりやすさを重視しないといけません。

災害時に、日南市のホームページを見ると、「緊急情報」「新着情報」「お知らせ(緊急用)」と同じような主旨の三つの項目があり、それぞれに地震に関するリンクが貼られています。
「防災・災害サイト」という別のサイトにも飛べるようになっています。
しかし、防災・災害サイトの「新着情報」の欄には、「現在新着情報はありません」との記載がありました。
これだけ大きな地震が発生して全国ニュースに取り上げられているにもかかわらず、日南市の防災・災害サイトには新着情報がないことに違和感があります…。

日南市のホームページ、スマートフォン向け
震災後も新着情報のない防災・災害サイト

緊急時はとにかく分かりやすさを求めるべきです。
いずれにしても、こういうのは平時にいかに準備するかが大事です
実際に、有事の際にはどのように市民に分かりやすく情報を発信するのか。時代の流れを読みつつ、普段からしっかりと想定しておかないといけません。

災害時に向いていないPDF


今回、市内の被害状況や市長メッセージについては、PDFファイルで公開されています。そもそも、PDFはスマートフォンユーザーにはあまり好まれません。専用の無料アプリなどをインストールしないと開くことができませんし、迅速な情報収集が求められる中でその手間は正直、煩わしいです。

PDFは容量が大きいためサーバーや回線リソースを圧迫し、被災地域では重要情報が閲覧できないケースも考えられます。

こうしたことから重要な情報はPDFに加えて、容量の小さいHTMLでも公開するべきです。

積極的な発信でデマ情報を防ぐ

能登半島地震では、架空の住所を示して助けを求める投稿をした人が逮捕されました。私も地震当時、この投稿を見て「怪しいなあ」とは思っていました。こうした投稿の影響で、本当に助けたい人を助けられなくなるため、かなり悪質です。
最近、Xは投稿の表示回数に応じて収益を得られるような仕組みを導入したため、収益目的で、嘘でも真実でもとにかく拡散できればいいと考えるユーザーも見受けられます。
こうした中で、市のアカウントや市の首長などがオフィシャルな投稿をすることはそれだけで価値があるのです。
今回は幸いにも、デマ情報が流れたという話は耳に入ってきてはいませんが、昨今の震災時の傾向から考えると、SNS上での正確な情報はより重要度を増しているのです。

リーダーに求められること


平時であれば、重要な決断をくだす場合はそこに至るまでにさまざまな決裁権者が関与することが可能です。
しかし有事には、市民が求めている状況が刻一刻と変化するため、リーダーが素早く決断をすることが求められます。

大災害を経験した地方自治体の市町村長らが「災害時にトップがなすべきこと」という提言書をまとめています。


【平時の備え】
1.自然災害の危機対処、被災後の復旧・復興の責任はトップに負わされる。トップはその覚悟を持ち、自らを磨く。
2.平時の訓練と備えがなければ、危機の対処はほとんど失敗する。
3.トップの責任は重いが、危機対処能力は限られる。連携の訓練等を通じて、遠慮なく「助けてほしい」と言える関係を築いておくこと。
4.日頃から住民と対話し、危機に際して行なう意思決定について、あらかじめ伝え、理解を得ておくこと。
5.行政にも限界があることを日頃から率直に住民に伝え、自らの命は自らの判断で自ら守る覚悟を求めておくこと。
6.災害でトップが命を失うこともありうる。トップ不在は、機能不全に陥る。必ず代行順位を決めておくこと。
7.日頃、積極的な被災地支援を行うこと。派遣職員の被災地での経験は、災害対応のノウハウにつながる。

【直面する危機への対応】
8.判断の遅れは命取りになる。特に、初動の遅れは決定的である。何よりもまず、トップとして判断を早くすること。
9.「命を守る」ということを最優先し、避難勧告等を躊躇してはならない。
10.人は逃げないものであることを知っておくこと。危険情報を随時流し、緊迫感をもった言葉で語る等、逃げない傾向を持つ人を逃げる気にさせる技を身につけることはもっと重要である。
11.住民やマスコミからの電話が殺到する。コールセンター等を設け対応すること。
12.とにかく記録を残すこと。

【救援・復旧・復興への対応】
13.トップはマスコミ等を通じてできる限り住民の前に姿を見せ、「市役所(区役所・町村役場)も全力をあげている」ことを伝え、被災者を励ますこと。
14.ボランティアセンターをすぐに立ち上げること。ボランティアが入ってくることで、被災者も勇気づけられ、被災地が明るくなる。
15. 職員には、職員しかできないことを優先させること。
16.住民の苦しみや悲しみを理解し、トップはよく理解していることを伝えること。
17.記者会見を毎日定時に行い、情報を出し続けること。「逃げるな、隠すな、嘘つくな」が危機管理の鉄則。
18.大量のがれき、ごみが出てくる。広い仮置き場をすぐに手配すること。畳、家電製品、タイヤ等、市民に極力分別を求めること。
19.庁舎内に「ワンストップ窓口」を設け、被災者の負担を軽減すること。
20.住民を救うために必要なことは、迷わず、果敢に実行すべきである。
21.忙しくても視察を嫌がらずに受け入れること。現場を見た人たちは、必ず味方になってくれる。
22.応援・救援に来てくれた人々へ感謝の言葉を伝え続けること。職員も被災者である。職員とその家族への感謝も伝えること。
23.職員を意識的に休ませること。
24.災害の態様は千差万別であり、実態に合わない制度や運用に山ほどぶつかる。強い意志で制度・運用の変更や新制度の創設を促すこと

災害時にトップがなすべきこと

もちろん、これは東日本大震災や熊本地震などのとてつもない大規模な災害で得られた教訓です。
しかし、今回の地震においてもかなりの部分で先人たちの知恵を生かすことができたのではないでしょうか。

特に、「11.住民やマスコミからの電話が殺到する。コールセンター等を設け対応すること。」
「12.とにかく記録を残すこと。」
「19.庁舎内に「ワンストップ窓口」を設け、被災者の負担を軽減すること。」
「24.災害の態様は千差万別であり、実態に合わない制度や運用に山ほどぶつかる。強い意志で制度・運用の変更や新制度の創設を促すこと。」

防災もアップデートを

全国的には、防災もいろいろアップデートされています。

https://www.city.hekinan.lg.jp/soshiki/shiminkyoudou/bosai/1_2/17544.html

例えば、このファーストミッションボックスという取り組みは、避難所を開設する際に必要な手順書などが書かれたボックスを各避難所に設置しておくものです。
すべての避難所に職員を派遣することは無理ですし、開設はどうしても住民の手を借りないといけません。だからこそ、こうしたものを設置しておくことで、スムーズに避難所の開設をできるようにしています。

南海トラフ地震に備えて多くの自治体が防災について試行錯誤をしています。だからこそ、時には全国の他の事例なども積極的に勉強しながら防災意識を高めていきましょう。

最後に

心構えの部分から細かい部分まで、いろいろなことを書きました。
私自身は防災のスペシャリストではありませんし、実際の実務においては現場の人たちから机上の空論だと反論されることもあるかもしれません。
また、今回、お盆休み返上で、地震の対応に当たってくださっている日南市の職員の方々には本当に頭が上がりません。
しかし、地域のリーダーになるべく活動しているからこそ、今回の事例を通して自分もしっかりと考え、成長しないといけないと強く思いました。
また、私は地域の人々の声を聞き、実現し、もっと良いまちに変えていくという決意から、「声を形に、新しい日南」という言葉を掲げています。
皆さんが今回の地震を機に感じたことを、ぜひお聞かせいただきたいです。

今回、まとめたことをしっかりと実践できるリーダーになれるように精進していくことを誓い、この文章を終えたいと思います。

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