本が読めるまで(6)志賀直哉「城の崎にて」

 前回に引き続き、志賀直哉の短編を読んでいきたいと思います。今回は「城の崎にて」です。前回の志賀の説明の中でも少し出てきた作品です。これまた短編なので読みやすい。

 「城の崎にて」の冒頭は、志賀が実際に遭った電車事故について書かれるところから始まります。それがどれだけ大変だったか、どんなに大きな事故だったか、などのことは一切書かず、とても簡潔に事柄だけが書かれています。志賀は「小説の神様」と称されることもあるのですが、ここまで情動的でないのに、小説が〈優れている〉というのはどういうことなのでしょうね。

 「城の崎にて」は「死」のイメージが多く書かれますが、これも不思議なことにとてもさっぱりしています。作品の中でもそれは「静かな感じ」という言葉で説明されます。技巧に凝らない、そのままで書く、志賀の小説を少しずつ読んでいくにつれて、この作家の特徴と魅力が見えてきたように思えます。まだまだですが。

 ストーリーがどんでん返しだったり、共感できるものだったり、そういう小説に惹きこまれるのは一般的にも共通だと思うのですが、こういう静かに流れるような作品の魅力を感じることができたら読書はもっとおもしろくなるのではないか、そんなことも考えます。いろいろなおもしろさを知っていきたい。

 (今日はおわり)

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