出かける。

出かける、どこに行くでもなく。

昔あったそんな日々。

 夜行バスで東北に行ってワカメ仕分けしたり、一人旅したり、同じゼミに5歳ぐらい上の人がいたり、男女関係もあったし、先輩後輩入り混じった飲み会があったり、そういうことがあった。

 ふらっと散歩して、知らないお店に緊張しながら入ったり。
 友人の軽音サークルに行ってライブハウスで深夜まで音楽したり。よく知らない誰の友だちかわからない人がいたり。今思うとあの時は危なかったなってこともたくさんあるけど、でも「若者」だった。

 一日中連絡を取り合うことはなかった。そんなことしたくなかったんだよね。きっとみんな。だって喫茶店行ったりするもん。あーあ、授業も学校もつまんないなと思いながら、大学のまわりお散歩したりするもん。あの駅まで歩けるんだ、歩いて行ってみようって行ったけど特に何も買うことできずに、何してんだ? って思いながら家帰ったりするもん。深夜まで図書館にいて、今日も何もしてないじゃんって思いながら、夜道歩いて帰宅したりするもん。

 よくわかんない一人の時間。

 大学からあの駅までの道のりとか、多分今全然役には立たないけど。でもそれ知ってるのとそうじゃないのとすごく違うのかもしれない。「充」じゃないけど、充実してた。

 町中にある洋菓子店にふらっと入って、そこで閉店間近の店員に急かされながらプレゼント時間かけて選ぶみたいな経験してよ。
 町中の判子屋で判子作りながら、店主の人生の話とか聞いてよ。
 万年筆、あーこれは難しいねーとか言われながらさ、外国製だけど日本のこのメーカーのこれなら合うかなとか言われながら、この話いつまで続くんだろう、っていうことを考えながら、一月後に行ったら直してくれていたとかさ。

 そういう経験。

 出向かないと出会えない生きた話。人の肌の質感。
 自分のなかに消えない生きた経験。

* * *

経験が私をつくる。気づかない間に自分のなかにある。
どこにでもいけるさ。

(おわり)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?