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演劇の感想:劇団lobo『ダッド、サッド、メタルバット』|電話演劇6月号『レディオ・クイズ』

劇団lobo『ダット、サッド、メタルバット』

6月7日(土)14時/札幌・BLOCH

渡辺さんの前説で、死なない父親役 棚田満さんの人柄や幕が上がる瞬間の状態をおかしく話していた。そのおかげで明かりがついた瞬間、棚田さんは縄で縛られ、いまにも殺されそうなシチュエーションなのに、つい笑ってしまう。作品の外でオプションをつけることの良し悪しはあると思うけど、今回の前説はそれがとても良かったと思う。この演劇の見方を、きちんと教えてくれた。

作品の見方がわからないまま終わってしまって、面白いはずなのに楽しめなかった、という経験は何度かある。宣伝や場内スタッフのあり方は、作品への導入をデザインするという視点も大切だと思っている。

話は内弁慶でDVを行う父親を家族が殺してしまうも、死体を捨てたはずの父親が、なにごともなかったかのように帰ってくるという設定で進む。『鈍獣』を思い出す設定でワクワクする。殺害の道具に「金属バット」をチョイスする点とか、たまに絡むメタ的なセリフなど、設定の重さと抜け感のバランスが見やすかった。

つたない部分もあったけど、全体通してある「ちゃんとしてる感」が好印象。見ていて安心感がありました。ぼくの中の氷月くんがずっと「実にちゃんとしてます」って言ってた。演技が個性的で見どころたっぷりの人を見る芝居よりも、全員がひとつの作品をつくって「ちゃんとしてる感」のある作品の方が好みです。

実際、女尊男卑で父を絶対とする考え方の父親が、(いかに会社では我慢を強いられていたとしても)家族に暴力をふるって未来を潰すという描写は、到底気持ちのいいものじゃない。先ほども言ったコメディ的なバランス感覚はあって見れたものの、この気持ち悪さをどこにも着地させないまま終わってしまったのは残念。社会に実在する問題を「ネタ」として消費しているようにも見えてしまった。

とはいえ不愉快さが残る感じではない(それが却って不安でもあるけど)ので、作品としてはとにかく見やすかったに尽きる。装置や道具の見せ方も、やりとりのリズム感も良かった。これは勝手な想像だけど、なにかと大変だけど、やさしい稽古場だったんじゃないかな。


電話演劇6月号『レディオ・クイズ』

6月20日(日)14時/電話

電話越しに自分にまつわるクイズが出題され、自分がどんな人間なのか知っていく展開。『スラムドッグミリオネア』とか『ザ・クイズショウ』とか、そういう雰囲気。

面白いなと思ったのは、観客(ぼく)は「記憶を失っている」設定が与えられること。ぼくの感覚では、お客さんに求めていいハードルじゃない!笑

記憶喪失をすこしでも体感するために、ぼくは馴染みのない駐車場に車を停めて、その中でこの作品に参加した。そこから見える、分かる範囲で、思ったとおりにクイズに答えてみた。

結論、なんかちゃんと怖かった。オチでぼくが実は殺人犯だったということが分かるんだけど、電話がつながっている間、妙な説得力があった。「あなたは今日からひとりで暮らしている」とか「あなたはタグチさんです」とか言われても、絶対に否定はできない。確かめようがない、ぼくが家族と暮らしている鎌塚慎平であることを。

いや、まあ「そんなわけないじゃん」の一言で終わるんだけど。でも電話の向こう側では、どうやらそんなわけらしく。電話がつながっている間は、怖さを味わっていた。

電話が切れたら、特になんていうことはなく、「ま、そんなわけないか」と家に帰った。これが残念と考えるか、安全のためにも正しいと考えるかは人によるのかも?

ぼくは家じゃない場所で参加したからそんな印象。これを一人暮らしの自宅で参加した人は、もう少し尾を引きそう。現実がフィクションに侵される感覚を味わえるのかもしれない。

ともあれ、個人的には前回の『悩めるサクラ』の方が印象的だった。前作は客がサクラに影響する。今作は作品がこちらに影響する。影響深度が小さいからかもしれないが、終わってしまえばどうってことはない。ぼく自信はなにも変わっていなかった。でもサクラの将来は今でも気になっている。

フィクションと現実の境をどう捉えるかで、好みは全然変わってくると思う。次の電話演劇はどんな切り口からやってくるのか、今から楽しみ。

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