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【読書感想】『散歩本を散歩する』(著・池内紀)

デスクワークの気分転換や運動不足解消のため、散歩を習慣にしている。気負うことなく、適当にブラブラと、大した意味もなく歩くという行為を楽しむようにしている。散歩愛好家であればちょっと気になる書名の本書は、著者による月刊誌『散歩の達人』の連載をまとめた一冊である。

言わずと知れた大作家である永井荷風や池波正太郎のエッセイから、東京の喫茶店のガイド本、名作『こち亀』でお馴染みの漫画家・秋元治による下町案内まで、散歩についての記述がある古今東西45冊の「散歩本」。それらの内容に触れながら、実際にそこで記された場所を散歩本を片手に散歩するという内容だ。

場所は東京が中心。先人達が歩んだであろう風景に思いを馳せながら、ぶらりと東京を散歩する。今も残る江戸の面影を追い、明治から昭和の近代建築を楽しみ、酒場やカフェで食を堪能する。
東京にはいろいろな側面がある。視点を変えれば、まったく違う東京の姿が楽しめるのだろう。時代も価値観も違う散歩本の作者達によって、千差万別な東京の姿が浮かび上がってくる。古いも新しいも内包する東京は散歩好きの知的好奇心を無限に満たしてくれる。散歩好きとして、東京近郊に住んでいる人を羨ましく思う。

紹介されている45冊の「散歩本」は、どれも散歩の視点を広げる興味深いものばかり。日々の散歩に彩りを添えて、良き散歩本との出会いも提供してくれる一冊である。

個人的には、著者が残した下記のメッセージが心に残っている。

テレビや広告に煽られることなく、一人ひとりが自分の責任で、何が好きなのか、何を見たいのか、どんな道を、どんなふうに歩きたいのか、自分の言葉で主張すべきなのだ。

『散歩本を散歩する』(著・池内紀)p.155

膨大な情報に絶え間なく煽られ続ける時代となった今だからこそ、自分の好きな道を、自分の好きなように歩いていきたいと願う。


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