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【マンガ感想】『イキガミ様』(著・TAGRO)

”生き神”様がいるという、不思議だけれどその他には何の変哲もない海沿いの田舎町・海野辺。

神様は町の人々に慕われているものの、見た目は普通のおっさん。

遥か昔から人とともに在るけど、土地の人からはそこまで珍しい存在とは思われていない、当たり前の存在。

神通力で人を救ったりもしないし、ご利益があったりもしない、願いも叶えてくれない、何もしない神様。

本作はそんな町を舞台に、町で暮らす中学生、東京から戻ってきたアラサー女性、ずっと町で暮らし続けていた彼女の幼馴染、東京から移住してきたオーガニックカフェ店主、「月からやってきた」と自称する謎の外人、そして何らかの理由で街に滞在している”死に神”様・・・といった人物達の営みを描く群像劇的なマンガです。

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(引用:『イキガミ様』 / 太田出版 / TAGRO / p.50)

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一見すると、田舎町を舞台にした日常系作品。

と見せかけて、その可愛らしい絵柄と田舎の緩い空気感、独特のちょっとアンニュイな雰囲気の中で、人生や死生観に向けた哲学を描いている作品です。

本作で描かれる田舎町には、何かしらの挫折によって仕方なく都会から田舎に戻ってきた人、逆に自らの意思で都会から田舎に移住してきた人、都会には出ずにずっと田舎に留まっている人などなど、様々な境遇の人々が交錯しています。

そして、ある者は自分にとっての”生きやすい道筋”が見つからず、人生に迷う。

自分にとっての人生の道標はどこにあるのか。

自分が生きていく上での”より良い道”とは。

そうやって人が迷う時、「何もしてくれない神様」に何の価値があるのか。

「何もしてくれない神様」を通して、緩やかに自分の人生に向き合っていくという、そんな感じ。

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(引用:『イキガミ様』 / 太田出版 / TAGRO / p.87)

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と書くとお堅いマンガに見えますが、そうではありません。

前述のようにTAGRO先生の可愛らしい絵柄で、田舎特有の長閑とアンニュイが入り混じったような空気感で描かれ、その裏に哲学も内包している不思議な読後感の作品です。

特に地方出身者や在住者、私のようにいろいろあって都会から地方に戻ってきたような境遇の人にとっては、いろいろと共感するものがあると思いますよ・・・

1巻完結で読みやすいので、興味のある人は気軽にお試しあれ。

個人的には、死に神様の語る死生観についても思うところありますが、まだまだ本作で描かれる哲学は自分の中で消化できない思いもあり。

今後も定期的に読み返したい一冊です。

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(引用:『イキガミ様』 / 太田出版 / TAGRO / p.73)

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