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読書感想まとめ

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自筆の読書感想記事のまとめです。
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記事一覧

【読書感想】『散歩本を散歩する』(著・池内紀)

デスクワークの気分転換や運動不足解消のため、散歩を習慣にしている。気負うことなく、適当にブラブラと、大した意味もなく歩くという行為を楽しむようにしている。散歩愛好家であればちょっと気になる書名の本書は、著者による月刊誌『散歩の達人』の連載をまとめた一冊である。 言わずと知れた大作家である永井荷風や池波正太郎のエッセイから、東京の喫茶店のガイド本、名作『こち亀』でお馴染みの漫画家・秋元治による下町案内まで、散歩についての記述がある古今東西45冊の「散歩本」。それらの内容に触れ

【読書感想】『久住昌之の終着駅から旅さんぽ』(著・久住昌之)

『孤独のグルメ』の原作者であり、数々のエッセイを執筆している文筆家でもある久住昌之先生。久住先生の散歩や酒に関するエッセイは不思議と惹かれるものがある。良い意味で気楽でゆるくて、するりと読める感じがなかなかに心地良いのだ。 以前、線路を主題にした『ニッポン線路つたい歩き』『線路つまみ食い散歩』という鉄道系の散歩エッセイを拝読したが、今回手に取ったのは「終着駅から気ままに散歩する」というテーマで散歩を楽しむエッセイである。 序文にて「力まず、肩の力を抜いて、目的も目標もなく

【読書感想】『筒井順慶の悩める六月』(著・中南元伸)

明智光秀が織田信長を弑逆する歴史的大事件として人口に膾炙するところの「本能寺の変」。その後、羽柴秀吉が明智光秀を破った「山崎の戦い」。本書の舞台は、その「本能寺の変」から「山崎の戦い」までの短期間となる。とはいえ主役は織田信長ではなく、明智光秀でも羽柴秀吉でもない。大和国(現在の奈良県のあたり)を治めていた筒井順慶という実在の人物である。 光秀謀反の急報を受けた筒井順慶。何が起きて、今はどのような状況で、誰が明智側に付いて、誰が織田側に付こうとしているのか? 明智光秀にも織

【読書感想】『あの日、松の廊下で』(著・白蔵盈太)

かの有名な江戸時代の大事件にして数多の創作の題材となった「忠臣蔵」。本書の舞台は忠臣蔵ではなく、その事件の発端となった所謂「松の廊下」事件。そして主役は斬られた吉良上野介でも斬った浅野内匠頭でもなく、「殿中でござる!」と浅野内匠頭を取り押さえた実在の人物、梶川与惣兵衛である。 あの前代未聞の事件は、どのような因縁の果てに、何故あのタイミングで発生してしまったのか。唯一人、その真相を知る梶川与惣兵衛が事件を回想する形で物語は進んでいく。松の廊下事件の真相については現在も謎に包

印象に残った本をざっくり振り返る(2023年)

2023年に読了した本について、特に印象に残ったものをざっくり振り返って書き残しておきます。 ■思い出リゾート(著:嬉野雅道) 『水曜どうでしょう』でお馴染みの嬉野先生のエッセイ。 独特で優しさが溢れる物事の捉え方と、鷹揚で朗らかな文章が気持ち良いです。 ■家康、江戸を建てる(著:門井慶喜) 徳川家康が、いかにして江戸という大都市を築き上げたのかを描く大江戸シムシティ小説。 戦国武将の派手な槍働きではなく、治・水道事業・貨幣政策・築城のような”街づくり”に関わる人達を

【読書感想】『利休にたずねよ』(著・山本兼一)

小説『利休にたずねよ』を読了。 実在する稀代の茶人・千利休を主人公にした時代小説で、彼の死(豊臣秀吉の命による切腹)から始まり、時を遡りながら「美の追求」に文字通り命を捧げるまでに至った理由、その業の原点に迫っていく物語です。 これはかなり良かった! 利休本人だけではなく、彼と関わった様々な人達による一人称視点で、代わる代わる千利休について語っていくという構成が面白い。 一つ一つの語りが短編小説のような形になり、その短編の集合体が一つの大きな物語を形成しています。 ある

【読書感想】『野武士、西へ 二年間の散歩』(著・久住昌之)

『野武士、西へ 二年間の散歩』を読了したので、感想です。 著者は『孤独のグルメ』等の原作者としてもお馴染みの久住昌之先生。 散歩好きの著者による「大阪まで散歩してみよう!」という豪快な思い付きから始まった、東京から大阪まで約500kmを2年かけて散歩した行程を記録したエッセイです。 ぶっ通しで500kmを走破するわけではなく、出来る限り無理なく自分のペースで歩き、目標を達成したら最寄り駅から電車で帰宅。後日その駅まで電車で移動し、続きから歩き始める・・・という繰り返しで、

【読書感想】『思い出リゾート』(著・嬉野雅道)

エッセイ『思い出リゾート』を読了したので、感想です。 御存知、北海道の人気番組『水曜どうでしょう』の名物ディレクターである”うれしー”こと嬉野雅道先生のエッセイです。 noteでweb連載されていたコーヒーについての話、みうらじゅん論、そして本のタイトルにもなっている”思い出”にまつわる話などを収録し、とても幅広くユニークな視点で語られています。 おまけで『ロケの手応えゼロだった「水曜どうでしょう」の新作はなぜおもしろかったのか』という光文社新書を模した別冊付録も付いてくる

【読書感想】『家康、江戸を建てる』(著・門井慶喜)

小説『家康、江戸を建てる』を読了したので、感想です。 豊臣秀吉から当時は不毛の地であった関東行きを命じられた徳川家康が、いかにして江戸という大都市を築き上げたのかを描くタイトル通りの大江戸シムシティ小説です。 本作で描かれるのは、あくまで治水、水道事業、貨幣政策、江戸城の築城という”街づくり”。 戦国時代が舞台なのに”戦”に焦点を当てないという、なかなか珍しい形の小説になっているのですが、そこが面白い! 私は変わった着眼点から語られる物語が大好きなので、とても楽しめました。

2022年 印象に残った本5選

2022年に読了した本の中から、特に印象に残っている本を5つ選んでみました。 2022年に発刊された本に限定しているわけではなく、あくまで私が今年読んだ本という条件です。 ■モモ(著:ミヒャエル・エンデ)もはや説明不要の超有名作品ですが、きっちり読んだのは今回が初めて。 長く読み継がれている金字塔的作品なだけあって、社会風刺的な側面がありながらも、それはそれとしてキッチリとワクワクできるファンタジーな冒険物語になっている偉大な作品でした。 今の社会を見ていると、今日もどこ

【読書感想】『戦国、まずい飯!』(著・黒澤はゆま)

戦国時代~江戸時代辺りの食文化は、個人的にたいへん興味のある分野です。 ということで読み始めた本書は、戦国時代の食に関するエピソードを紹介しながら、当時の食事に関する文献を調査し、可能な限り当時に近い形で再現して実食してみる、というなかなかにユニークな試みをしている歴史本です。 糠味噌汁や干し飯、武田信玄で有名なほうとう等、著者が当時の食文化を紐解きつつ、実食もします。 真田信之が放浪の際に食べたという道端に生えていた雑草(スギナ)まで食べているあたり、著者の歴史に対するほ

2021年 印象に残った本5選

そろそろ、2021年とも別れの時。 ということで、小説・エッセイや実用書等の一般書籍で今年印象に残ったものを5つ選んでみます。 今年発行された本ではなく、あくまで自分が今年読んだ本です。 ということで、2021年の本5選! ■炎の武士(著・池波正太郎)池波正太郎先生による時代小説の短編集。 先生の小説は、私にとっての心の栄養です。 『水曜どうでしょう』のどうでしょうゼミナールで題材になった鳥居強右衛門が主人公の短編があり、どうゼミで習ったあの強右衛門の物語が池波先生の筆で

【読書感想】『北海道室蘭市本町一丁目四十六番地』(著・安田顕)

ご存知TEAM NACSのメンバーであり、「平成の怪物」と呼ばれ、今や日本でもトップクラスの存在感を放つ俳優として活躍している安田顕さんの、2008~2011年頃のエッセイを纏めた一冊。 私がヤスケンこと安田顕さんを初めて認識したのは、北海道の伝説的ローカル番組『水曜どうでしょう』でした。 本放送の時代(1990年代後半)から見ていた世代からすると、近年の大躍進には感慨深いものがあります。 『鈴井の巣』やら『いばらのもり』やらで、視聴者を困惑させる時代を先取りし過ぎた天

【読書感想】『焼きそばうえだ』(著・さくらももこ)

子どもの頃に読んだ『もものかんづめ』の影響で、定期的にさくらももこ先生の良い意味で緩いユーモア溢れる文章を読みたくなります。 ということで、最近読んだのが先生のエッセイの一作『焼きそばうえだ』です。 著者を筆頭に、ちょいちょい集まってはくだらないバカ話に花を咲かせるために結成されたという「男子の会」。 そんな楽しい会の中で、「家が会社から遠くて狭い」「出世の見込みがない」「妻や子どもに見放されている」「いざという時、男として役に立たない」など、やたら儚げな話で周囲を何と