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170年続く酒蔵の伝統と、20代の蔵人が生む革新【かまびと。#08 大里酒造・大里岳さん】

🌱かまびと。
嘉麻市のふるさと納税に関わる「ひと」にクローズアップ。こだわり抜いた返礼品を提供している事業者さん、嘉麻市のために頑張る市職員さんなどなどの紹介をしています。

天保年間に創業され、170年以上もの伝統を持つ「大里酒造」。昔ながらの手づくりの製法を大切にし、原料や環境の微妙な変化に応えながら酒造りをしています。その一方で、甘酒を使ったスムージー販売や地域を巻き込んだマルシェなどの新しい取り組みにも積極的にチャレンジしているのです。

今回の「かまびと。」でご紹介するのは、大里酒造の9代目杜氏候補の大里岳さん。まだ20代の岳さんは「地域に根ざした酒造りをする」という大里酒造の長年のこだわりは守りつつも、新商品の開発やイベント開催を通してこの酒造や嘉麻市に新たな風を吹き込んでゆく地域のキーパーソンです。

そんな岳さんも、もともとは酒蔵を継ぐつもりはなかったんだとか。そこでこのインタビューでは、大里酒造さんの日本酒づくりへのこだわりはもちろん、岳さん自身の酒造りに対する考えの変化や、新たな取り組みに込める思いをお伺いしました。

1, 小さい酒蔵だからこそ、原料と対話する「気配りの手作り」

ー大里酒造さんでは、酒造りをするにあたってどのようなところにこだわりを持たれているのでしょうか?

酒造りのこだわりは大まかに「原料」と「作り方」に分けられると思います。

日本酒の原料としては主に酒米と水を使います。うちで主に使っているお米は「夢一献」という品種です。日本酒は使う原料や発酵の方法、酒蔵の環境によって味が変化するのですが、この品種はお米自体のバランスがよく、発酵によってお酒の味を変化させやすいですね。

また、酒造りには水が非常に重要だと言われています。大里酒造は遠賀川の源流近くにあるので、質の良い水を使って酒造りを行うことができます。一般的に日本酒作りに使う水が軟水だと甘口に、硬水だと辛口になりやすいと言われていますが、遠賀川の水はやや硬水に近いです。ただ、硬度はそれほど高くないので酒造りをする上では扱いやすい水ですね。

うちの酒造では、ほぼ手作業でお酒を作っています。日本酒作りに詳しい人がうちの酒蔵見学に来ると、「昭和初期と同じような作り方をしている」と驚かれることがありますね(笑)。米を麹室(麹を繁殖させるための部屋)に入れる前に、300キロから400キロの蒸した酒米を掘って手で広げる、なんて作業をすることもあります。もちろん大変ですが、手作業でしかできないこともあるので僕たちはこのやり方を続けています。

また、酒造にはそれぞれその蔵の「軸」というものがあると思います。うちの場合は地元産の米を使って、土地にあった日本酒を作るということを軸に据えています。

酒造りの様子。蒸した酒米を掘って広げているところです。

ー最近は酒造りの工程を機械化するところもあるかと思いますが、機械化した場合と手作業の場合に味わいの違いはあるのでしょうか?

おっしゃる通り、特に大規模な酒蔵では機械を使っているところもあります。手作りにこだわっているのは、米を手で触った時の感触を確かめられるからですね。

たとえば先ほどの作業は米の塊をばらけさせて、水分量が均一になるまで乾かすために行っているのですが、実際に人間の手で見てみないとどれくらい乾かさないといけないかわからないことがあるんです。温度だけ見るとこのままでいいはずだけど、触ってみるともう少し乾かさないといけないぞ、みたいな。

仕込みの量が増えるに従って、どうしても機械を入れないと作業が追いつかないことはあると思うんです。うちは小さい酒蔵なので、規模が小さいからこそ1つ1つの作業を丁寧に、ということをモットーにしています。

ーふるさと納税には「特選純米酒」と「大吟醸」を出されていると思いますが、それぞれのお酒のコンセプトを教えてください。

特撰純米酒は、飲みやすくて、なんかちょっと落ち着く、という味になっています。とにかく「迷ったらこれ」と言えるようなお酒で、うちの酒蔵の軸になるような味ですね。

大吟醸はひとことで言うと「辛口フルーティー」なお酒になっています。糸島の山田錦を(精米歩合)40%まで削っているので、初心者や普段日本酒を飲まない方でも飲みやすい味です。お米を削るということは、お米の周りについている雑味成分を取り除いていることになるので、クリアな味わいが特徴ですね。

直売所の様子。ふるさと納税に提供されているもの以外にも
多くの種類のお酒を扱っています。

2, サービス業からの転身、酒蔵を継いだ理由

ー岳さんは大里酒造の9代目ということですが、なぜ酒蔵の家業を継ごうと思ったのでしょうか?

もともと家業を継ぐつもりはなかったんです。小さい頃から両親の仕事を見ていて、酒造りはもちろん小さい酒蔵を経営していくのは大変そうだなあと感じていたので。酒造りに関わる人はたいてい農業系の大学で醸造を学ぶのですが、僕は福岡の大学の経済学部に進みました。新卒で就職したのも当時関心のあったサービス業の会社でしたね。

ただ、その会社に勤めていた時に、「目の前の相手と真摯に向き合いたいのに、忙しさと慣れで仕事を『作業』として捉えるようになってしまう」という理想と現実のギャップにぶち当たってしまって。結局その仕事は1年で辞めてしまいました。

仕事を辞めた時に、両親と今後について相談したんです。その時に「とりあえずうちの蔵でしばらく働いてみたら?」と言われたんです。当時は特に酒蔵の仕事に興味はなかったのですが、とりあえずやってみようと思って家業に関わることになりました。

うちは歴史の古い酒蔵なので、昔からのお客さんが多くいます。店頭でお酒の販売をしているときに、お客さんに「ここのお酒好きなんだよ」「ここのお酒じゃないとダメなんだよ」と言われたことがありました。

僕は、仕事は人と人との繋がりで成り立っていくものだと思うんです。それを聞いた時に「この蔵は無くしちゃいけないな」と。そこから「どうやったら酒造りを続けていけるんだろう」と真剣に考えるようになりました。

3, 「一生修行」酒造りの長い道のり

ー酒造りはどうやって学ばれたのですか?

僕の場合、まずは酒を好きになることから始めました。正直、この仕事を始めた頃はそんなに日本酒が好きではなかったんです。というのも、大学生の頃は品質管理がきちんとされていないようなお酒ばかり飲んでいたんですよね。ただ、うちに帰ってきたときにきちんと品質管理された日本酒を飲んで「これ美味しい…」と衝撃を受けたんです。それからはうちの蔵のお酒や他の酒蔵さんのお酒を飲み始めました。

あとは座学と実践です。酒造りの教科書のようなものがあるのでそれを読み漁ったり、両親の仕事を手伝ったりして学んでいきました。

ー実際に初心者から酒造りができるようになるまではどのくらい時間がかかるのですか?

「酒造りができるようになる」の基準によりますね(笑)。僕は酒蔵の仕事を始めて4年目なのですが、一通りの工程を実践することはできます。ただ、酒造りの世界は「一生修行」だと言われています。自分が理想とする香りや味を追求していくとなると、途方もない時間がかかると思います。

たとえば、別の蔵のお酒の味に近づけようと思って、その蔵と全く同じ原料を使って、全く同じ作り方をうちで実践しても同じ味になるとは限りません。さらに、同じ蔵で去年と全く同じ作り方をしても、今年同じ味ができるわけではないんです。

日本酒は水・米・米麹・酵母でできているのですが、この4種類の組み合わせと発酵の度合いで味が如何様にも変わるんです。さらに、蔵によって環境や住んでいる菌も違います。そのようないくつもの変数を微調整しながら味を作っていくのはとても難しくて、「今年のお酒は最高の出来だ!」と思っても、「もう少し酸味を足した方がよかったな」とか「もう少し発酵させて味をキレさせた方がよかったな」とか、まだまだ改善点が出てくるんですね。杜氏である父は、「『100点満点の酒ができた』と思ったらそこで杜氏としての成長は止まってしまう」とよく言っていますね。

岳さんは「杜氏見習い」として酒造りの一部の工程を任されています。

4, コロナ禍の打撃、そこから生まれた新しい取り組み

ー岳さんが家業に関わるようになってから、酒蔵に変化はありましたか?

僕が家業に携わる前、直売所にお酒を買いに来るのは年齢層が高い人がほとんどだったんです。酒蔵で仕事を始めた頃は「このままだと先細りしてしまう」と感じました。だからこそ、新しい顧客、特に若い人をもっと取り込んでいかないといけないと思ったんです。

うちは直売所と居酒屋や卸業者への出荷を通してお酒を販売しているのですが、その頃は出荷分が売り上げの多くを占めていました。ただ、コロナ禍で居酒屋が営業できなくなって、この分の売り上げがほぼゼロになってしまったんです。そこで、出荷だけではなく直売所での販売を増やさないといけないと強く実感しました。
ただ、若い人はそもそも日本酒、ひいてはお酒をあまり飲みません。また、直売所には車で来る人が多いので、そもそも直売所でお酒を飲んでもらうことも難しい。

そこで、アルコールが含まれない甘酒を使って、若者向けに「甘酒スムージー」を販売してはどうだろうかと考えました。今では地元の農家さんとコラボして色々な味を出していて、これを目当てに来てくださる方も増えました。若者向けの商品開発にも力を入れていて、お客さんの年齢層は圧倒的に若くなりましたね。

大里酒造さんで購入できる甘酒スムージー。
私は「不知火スムージー」をいただきました!

また、SNSでの発信活動も積極的に行うようにしたので、SNSを通じて全国からお客さんが来てくれるようになったり、遠くの酒屋さんから取引のお誘いが来るようになったりしました。

🔼大里酒造さんのInstagram。岳さんが発信を担当しています。

ー新商品の開発も積極的に行っているというお話がありましたが、それぞれの商品に込めた思いを教えてください。

これまでに開発した新商品としては「日本酒リキュール」と「言霊シリーズ」があります。

日本酒リキュールは、日本酒に全く興味がない人にも手に取ってもらえて、日本酒の可能性を感じてもらえるようなお酒にしたいと思って作りました。普通のリキュールは醸造アルコールを使うのですが、このリキュールは日本酒をベースにしています。日本酒はとても繊細なので温度管理など取り扱いは難しくなりますが、お米を使っているからこその風味の柔らかさなど他のリキュールにはない味わいがあります。

言霊シリーズは、「言葉に向けてお酒を作っていく」というコンセプトのお酒です。それぞれ「凛」「閃」「爽」など、味を表す漢字一文字の名前がつけられています。

これは「自分たち若い世代に向けたお酒を作りたい」という思いを持って作りました。若者にとって、日本酒の世界は複雑でわかりづらいと思うんです。少し興味があっても、たくさん種類があって何を飲んだらいいかわからない。なので、見た目をスタイリッシュにして手に取ってもらえるようにする、ラベルで味の特徴と飲み方を説明するなど、「最初に手に取って飲んでもらえるお酒」になるように工夫しました。

「言霊シリーズ」の「凛」。見た目のかっこよさにもこだわっています。

ー定期的に「黒田武士マルシェ」というイベントも開かれていますが、このマルシェを開こうと思ったきっかけを教えてください。

まずは、直売所に来てくださるお客さんを増やしたいという思いがありました。ただ、裏の目的として「嘉麻市を盛り上げたいと思っている人がつながる場所を作りたい」ということを考えていたんです。

嘉麻市には面白いことをやっている人がいっぱいいるのに、その人たちがお互いにつながっていない状態はすごくもったいないじゃないですか。僕自身は、個人が「点」としてそれぞれで嘉麻市を発信していくよりも、点と点が繋がって「面」になった方がより面白いことが生まれるんじゃないかと思っているんです。なので、マルシェに出店した人たち同士が繋がりを作って、一緒に別のイベントを立ち上げたりコラボして商品を作れたりしたらいいなと。

実際に、マルシェに出店してくれた方どうしがコラボ商品を作ったり、お互いの商品を直売所に置いたり、という流れができつつあります。

マルシェは直売所の敷地を使って行われています。
これは夏に開催されたマルシェの出店者の集合写真です。

5, 「嘉麻市のハブになりたい」これからの展望

ーこれからの展望を教えてください。

「嘉麻市と言えば大里酒造がある」と言われるような酒蔵を作っていきたいです。嘉麻市って、「嘉麻市と言えば〇〇!」と言えるようなものが少ないじゃないですか。だからこそ、嘉麻市と一緒に大里酒造についてももっと多くの人に知ってもらいたいなと思います。

また、大里酒造を「あそこにいけば何か面白いことがある、誰かと繋がれる」「何か困ったことがあったらここに行きな」と言われる場所にしていけたらいいなという思いもあります。

ーいわゆる「地域のハブ(拠点)」のような場所ということでしょうか。

そうですね!まさに嘉麻市のハブになれたらいいなと思っています。


ここまで読んでくださりありがとうございました!

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