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【座談会 後編】地方におけるクリエイターの暮らしと、架け橋としての「クリエイターズファイル」

宇都宮・益子・栃木の3地域で連携開催するクリエイターズファイルの展示とトークイベントに向けた、各地域の代表による事前対談。

前編では、地ごとのクリエイター事情を軸に話が展開しました。

ここからの後編は、栃木県におけるクリエイティブのお話です。

​​登場する人(敬称略)

簑田理香
益子町在住。地域編集室 簑田理香事務所 主宰。風土調査をベースに地域づくりの企画立案から広報プロモーションまでを手掛ける。ヒジノワcafe&space共同運営(2010〜)。

遠藤百合子
栃木市在住。栃木県の移住定住コーディネーターとしての東京勤務を経て移住。嘉右衛門町伝建地区の活性化を目的に、地域おこし協力隊として広報物や冊子の作成、イベント開催などを行っている。

中村周
東京都と宇都宮市の二拠点居在住。宇都宮大学大学院卒業。在学中に宇都宮市街地の釜川でまちづくりの拠点となるKAMAGWA POCKETを開始。平日は東京、週末は宇都宮で活動している。釜川から育む会 代表。

栃木県のクリエイターの存在が分かり、つながる先にはどんな未来があるのでしょう。現代ならではのクリエイティブの問題も踏まえて、最後には「クリエイターが暮らしやすい地域とは?」といった話題に。

11月20日に行われるトークセッションへの伏線ともいえそうなトークテーマですので、せひ最後まで呼んでもらえると嬉しいです。(インタビュー・執筆:山越栞)

まずは県内のクリエイターを知るところから

―栃木県内のクリエイティビティについてどう感じていますか?

簑田:栃木県として発信するクリエイティビティの質を上げるとか「もっと格好いいものを作ろうよ」と考えているわけではなくて。広報物などを作っていく過程で、外から来た大きな代理店にいつまでも仕事を投げている状況だと、県内のクリエイターが育たないと思っています。

県内で活動するクリエイターがつながって現状を把握し、伝えていくには、それぞれがどんなクリエイティビティを発揮していくべきかを、ワークショップ的な会議を通して内側から構築していける仕組みを作っていかないと、持続性がないと思っています。

中村:地元のつながりを活かすという意味では、例えば学校給食では、なるべく栃木県内の食材を使おうとしたりするじゃないですか。クリエイティブもその感覚で作られていく状況ができたらいいのかな、なんて思いました。

どちらにせよ、表に出てきてないだけで、実は県内にもクリエイターはたくさんいるといった視点に立ったほうがいいのかもしれないですね。栃木に住んでいるけど東京の仕事をしていたりと、面白いものを作っている人は地元を活動のフィールドにしていない可能性もあるわけですよね。そんな人が、実はスーパーで普通に買い物をしてたりするかもしれないですし。

簑田:そうですね。まずは存在を知るための、今回の「クリエイターズファイル」ですもんね。

中村:今回をきっかけに、エリアごとにどんな人がいるのかをちゃんと知っていく必要があるのかもしれませんね。

遠藤:ところで今回、募集要項に「猟師」って書いてありましたよね。思わず二度見しちゃった(笑)。

中村:気づいてしまいましたか(笑)。クリエイターってすごく曖昧な言葉だと思うのですが、創造的もしくは革新的であればクリエイテビティがあるんじゃないかと。

ちょっとした工夫で生活は変わるじゃないですか。「掃除用のほうきをひと工夫しただけで、すごくたくさんゴミが取れるようになった」とか。そういうこともクリエイティビティだと思うんです。ちょっとでも今より良い生活が明日へと積み上がることによって、社会がどんどん良くなっていくという。そういう目的で僕らは釜川沿いの活動も行っているので。

つまり、よりクリエイティビティを発揮できる生き方をしている人だったらみんなクリエイターと呼んで良いと思うんです。

誰もがクリエイターになれる現代で、次世代をどう見出すか

―これからの栃木県におけるクリエイティビティについて、思い描く未来像などはありますか?

簑田:やっぱり、若い世代が本当に好きなことで仕事ができる世の中になればいいですよね。今回のクリエイターズファイルを通して「こういう人がいたんだ」と情報が伝わっていくことで、市町村を越えて仕事の依頼が来るとか。

そのクリエイターさんの特性を良く理解した上で、「今回のこの案件にはこの人だよね」と、キャスティングする側の能力も上がっていき、若い人たちもいい機会に巡り会える様になるような循環が進めばいいなと思います。

あとは、私はもう年をとってきたので、若い人たちにどういう環境を残していってあげられるかを意識しますね。若い人たちが学べる環境を、先輩世代がちゃんと作ってあげないといけないなと思うんです。

今、土祭のプログラムとして提案して実施している「レポーター養成プロジェクト」で、7名のレポーターさんを養成しているんです。添削をしていて感じるのは、どうしてもインターネット上のコンテンツに慣れていると、これでよし!という基準が下がっているように思います。

文法的に間違っている日本語がそのまま記事になってしまっていたり、写真にしてもデザインにしても、ちゃんと学んで下積みしていなくても、レタッチアプリなどの使い方が器用なというらプロっぽくできちゃうんですよね。

そんな状態で仕事が成り立っている側面が見えてくるとなおさら、学べる機会を与えてあげられる環境づくりは大事だなと思います。

中村:簑田さんがおっしゃっていることってすごく根深いですよね。今って確かに、誰でもプロっぽくなれちゃう時代で、デジタルならではの「アジャイル型」というのは響きがいいとは思うけど、一回リリースしても後で直せる状況がクリエイティブの甘さを生んでいるんじゃないかな。

といいつつも、僕自身もSlackで打った文章を見返さないですもん。投稿後に誤字を見つけて直すみたいなことをしょっちゅうしちゃう……。

あとは勉強してなくても何かを作れて、それを簡単に発表できる環境って、ある意味では天才を生み出しやすい社会にはなっているんだろうなと思う一方で、天才ってすごく少ないので、それ以外の人が荒削りのアウトプットを量産していたりも。でも、彼らとしてはすごく楽しんでいると思うんです。

みんながクリエイターになれるのはいい状態ではあるけれど、それによって何かが失われているこの状況が、今後僕たちの社会の中でどういう意味を持ってくるのかをちゃんと考えないといけない気がするんですよね。

簑田:そうですね。たしかに誰でも即席にクリエイターになれる時代ではあって、その面白さは多分にあるけれど、同時にクリエイティブの世界は「学び続けてなんぼ」でもあると思うんですよね。

中村:そうすると、入り口のハードルが下がっている中で、クリエイティブの本質的な底上げもできるといいんですかね。「きみは一体何を作っているの?」と問われたときにクリエイターがちゃんと答えられるとか。

地方におけるクリエイターの暮らしを後押しするには?

遠藤:「クリエイターズファイル」の存在価値は、移住定住にも関わってくると思います。移住に関心のあるクリエイターにとっては、移住先に仕事のツテがないと稼いでいけるかどうか不安でしょうし。「クリエイターズファイル」を活用して、地域での仕事が入ってくる仕組みが整ったら変化があるかもしれないですよね。

今って都心部に住んでいる人からしたら、「栃木はクリエイティブだな」とか「おしゃれな人が移住している」ってイメージはあまりないと思うんです……。

だから「最近栃木にクリエイターが移住してるよね」みたいな流れになれば、県全体のクリエイティブの質を上げる動きにつながるかもしれないし。

簑田:どこに住んでいても仕事ができるクリエイターも増えてきているから、栃木に仕事がなくても都心部の仕事をしながら豊かに暮らせる環境がもっと整うといいのかも。

実は最近、ヒジノワでカフェをやりたいという人が久しぶりに現れたんです。茂木に移住してきた女性で、在来野菜の調査をして種の販売もしているとか。ご主人がWEBディレクターとして働いていて、ご夫妻で移住してきたそうで。農業に関心があって、半農半クリエイティブみたいな生活をしているそうです。

中村:地方都市におけるクリエイターって多分、東京のクリエイターとは価値観も違いますよね。

そもそも、メディアが東京に集中していることが、そのままクリエイターのいる場所につながっていると思うんです。例えば、デザインとかイラストにかけられる予算が地方だとすごく限られてしまうので、「食い扶持」という意味で、そこに存在できるクリエイターの数が決まっていて、パイの奪い合いになってしまう。

だから地方においては、クリエイターという職能の幅を広げて、「こういう暮らし方だったらできる」みたいなことを移住定住者に提示しないと、移住してきたはいいけど仕事がない状況が生まれてしまう問題は往々にしてあって。仕事の箱を用意してあげることが、移住定住につながる気もしています。

そういう意味では今回をきっかけに「栃木では面白いことができそう」と思ってもらえるのが大事なのかもしれないですよね。

簑田:あとはやっぱり、地域ごとにクリエイターの個性がある気がするんですよね。今回のクリエイターズファイルでそれを知って、自分たちの地域にないものを他の地域のクリエイターさんから学び合う機会になればいいですよね。

中村:確かに今回、益子と栃木と宇都宮でも雰囲気が全然違いますもんね。それを今後もっと広げたときにより特色が出てくると思うので、さらなるコラボレーションにつながるといいなと思いました。

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