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だから私は、香港を愛す。

普段、あまり映画を見ません。

どんなに面白くても、1時間を過ぎた辺りから、段々飽きてくるんです。
早く終わらないかな〜って。
(共感出来る人、いません?笑)

何でかな、本だと大丈夫なのに。

矢張り私は、活字の世界の人間なのかもしれません。


そんな私でも、「好きな映画」として挙げている作品が幾つかあります。

その一つが、王家衛(ウォンカーウァイ)監督作品。

香港の映画監督で、主に1990年代から2000年代に、多く作品を残しています。

特に好きな作品の1つが、「天使の涙」。

原題は、「堕落天使」。

我らが日本を代表する俳優である、金城武さんも、出演しています。

作品が世に出されたのは、1995年。
(日本では、1996年に上映。)

映画の舞台となっているのも同時期で、まだ中国返還前のイギリス香港だった頃。

ちょうど私が生まれた時期にもあたります。

そして、肝心のストーリーはと言うと、この映画、きっちりとしたあらすじがありません。
所謂「起承転結」が無いのです。

台本にも細かいセリフは無い中で、撮影が進められたそうです。
王家衛監督作品では、割と他の作品もこんな感じ。

明るいネオンサインと雑居ビル。
中国本土からの移民と西洋の民。

"香港"という街にしかない独特のコントラストの中、希望と絶望を持って生きる男女が、流れるように描かれます。

細かいセリフが決められていないからか、言葉数も少なめ。

1990年代の香港という先行き不安定な空気感の中、自分達が何処へ行くのか分からないままに、
刹那を生きる姿。

登場人物は皆、派手なネオンサインと雑居ビルに溶け込んで、儚くも美しい。


そしてラストシーンが、ミシェル・リーというヒロインの女優さんが、金城武にバイクで送ってもらうシーンなのですが、その時のミシェルのセリフがとても印象的。

"帰る時、彼に送ってと頼んだの
初めて人と こんなに近く
すぐに着いて別れるのは分かってたけど
今のこの暖かさは永遠だった”

そしてカメラは、明け方の香港の空へ。

"今のこの暖かさは永遠だったー。"

心の暖かさを、こんなにダイレクトに表現した言葉があるだろうか。

「あぁ人は、こんな瞬間を感じる為に、生きているんだ。」
私には、そう思えてなりませんでした。


人は皆、多かれ少なかれ、絶望と希望を持って生きていると思うのです。

今絶望を感じていたとしても、ふとした言動から次の瞬間、希望を感じていたり。

その連綿と続く刹那こそが、人間であり、人生なのだと。

香港という街を考えた時、私はどうも、
国や地域ではなく、「人間」を見ているような気持ちになります。

それは香港に、人間の絶望と希望、良い面と悪い面、明るい部分と暗い部分、その両端が、隣り合わせで組み込まれているからなのでしょう。

この映画は、殺し屋が出て来るなど、およそ普通に共感が出来るような内容ではないのですが、なぜだか自分ごとのような切なさが感じられるのは、香港にそうした人間味が写し出されているからだと思います。


いつかの海外旅行中、上海か何処かの空港で見た案内板。
「international & Hong Kong」

コロナで忘れ去られがちですが、香港は常に、
自分達のアイデンティティや帰属意識と闘っています。

私の文章など何の救いにもなりませんが、こうして島国から大陸の端っこに想いを馳せている事が、香港で生きる人々の心に届いてくれたらいいな、なんて。

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