幻影現実1.到着の夜
最寄り駅に着いたときには23:00を回っていた。
初めての場所で電話も繋がらぬまま、地図だけを頼りに降り立ったが、すぐに、なんと甘い考えをしていたのか、と気づかされる。
閑静な住宅街、同じような外観の住宅群、少ない外灯、暗闇の中で立ち竦んだ。
ふと人影が横切った。
反射的に住所のメモを差し出し、藁をも掴む思いで場所を問った。
とっさに声をかけられたのは、初老の女性。犬の散歩中のようだ。
彼女は一瞬驚いたものの、目的地はすぐ近くらしく、快く目的地まで誘導してくれた。
どうやら同じ団地内は把握しているようだ。
さて、また目的地の扉を前に、立ち竦んだ。
きいい
呼び鈴とともに薄暗い扉の向こうから、蝋燭を携えた皺々の手が現れ、その少し奥で眼光が光ったのだ。
「中へお入りなさい。」
いくらか躊躇したものの、言われるがままに、そろりと歩みを進める。
進むしか選択肢がないのだ。
薄暗い廊下。蝋燭の薄明かりの移動とともに肖像画がぼんやりと見える。
廊下の奥に雰囲気にそぐわない赤い光。
奥右手のリビングに通された。
そこでようやく、男性の全貌が現れた。
「ディナーはまだかね?質素だが歓迎の食事をしよう。特別な夜だ。」
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