伝統芸能の[間(ま)]の授業《中級者編》
前回[「間(ま)]の授業《初級者編》を書いた。
今回は、[間]の授業《中級者編》だ。
“無音”であるはずの[間]を、
[音]が無いから聞こえないのでは無くて、
[音]はあるのだが聞こえないに変換させ、
“聞こえる無音”にしていきたい。
“聞こえる無音”だなんて、矛盾してるじゃないかと思うかもしれないが、
この、矛盾が鍵となる。
今まで何も無いと思っていた事柄に具体的な“意味”を与えて“見える化”していきたいのだ。
無音を[物体]にしよう!
まずは、部屋の中に、特別な場所を作ってみてほしい。
広い場所は必要無い、小さな空間や隙間で構わない。
空っぽな箱や空っぽの引き出しでも良い。
空っぽな空間なら何でも良い。
本棚と壁の隙間でも、
ベッドと床の空間でも、
洋服のポケットでも
コーヒーカップの持ち手の丸い空間でも、
ドーナツの穴でも構わない。
“見えないけど、そこに何かが居る”と感じられれば良い。
そして、その隙間や空っぽの引き出しを毎日徹底的に愛でよう。
姿形の無いものを可愛がるなんて難しいよって場合は、空間を擬人化しても構わない。
ぽよぽよした透明なスライムを想像してもいいだろう。
名前を付けたほうが愛着が沸くならそうしても構わない。
その存在を長い時間維持して、大切に扱い、
かけがえのない存在に昇華させよう。
外出している時も、その隙間や空っぽな空間の事を思い出して脳内に強く焼き付けよう。
最初は馬鹿馬鹿しく感じる行為かもしれないが、
何日か、そんな感じで過ごしていたら、
“気配”みたいなものが向こうからやって来るようになる。
外出していても、
ビルとビルのあいだの空間、
石と石の隙間、
葉っぱに空いた虫食いの穴、
木とガードレールの隙間、
街中のあらゆる隙間や空間に、
“気配”が煙のように充満して感じられるようになる。
この“気配”というのが重要なポイントだ。
“気配”が感じられたなら、[間]の見える化は成功している。
物体も空間も、其々[実存の一形態]と感じる事ができたなら、
“無音”を[音]として捉える事が可能になる。
そして、“両者を入れ替え可能な状態”にしていく。
[間]は常に“気配”を纏っている。
今はまだ、
その“気配”というエネルギーに気づけていないだけである。
そして、もう一つ大切な事は、
“気配”は“生き物”であるということだ。
その“気配”をポチと名付けたなら、
そのポチは同じポチに見えても、1秒前のポチとは違う存在で、“ポチは秒で生まれ秒で死んで”を繰り返している。
サイクリック宇宙論みたいなものだが、
その速度が早すぎて、“同じポチ”に見えてるだけなのだ。
その時に生み出された絶妙な“気配”である生きた[間]は、
録音物になったとたんに、
死んだ[間]になってしまう。
残念ながら、[間]は録音物の中では生きていけない。
録音物の[間]は例えるならば、
切り取られた“亡霊の囁き声”である。
生きている[間]に出会えるのは、舞台での生演奏だ。
舞台毎に毎回違う絶妙な生きた[間]を、
演者は作り出さなければならない。
世阿弥の言う“時節感当”である。
演者が生きている“気配”に気付けるかどうかが重要なポイントなのだ。
潜んでいる“気配”に気づけるようになっただろうか?
ここまでくれば、《中級者編》は終わりである。
《上級者編》へ続く。