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漢方とお香 - 不安やストレスについて

はじめに

前回、漢方と新型コロナウイルス COVID-19について、どのような対応が考えられるかをまとめましたが、現在のように急激に生活環境が変わったり、先が見えない状況が続くことによって、心や体のバランスを崩してしまうことがあります。そこで今回は不安やストレスなど、漢方での精神面の整え方について、2020年2月にATELIER MUJI GINZAで行った山田洋平さん(山田松香木店)とのトークイベントをもとにまとめていきます。
(2020年5月18日)

まず、漢方薬には肉体面だけでなく、精神面に効果的な処方がたくさんあります自著「鎌倉・大船の老舗薬局が教える こころ漢方(山と渓谷社)」にも書いていますが、不安感、ストレス、イライラ、不眠、やる気が出ないなど、漢方薬が有効なケースがあります。また、ストレスと冷え、不眠と肉体疲労、PMSやPMDDなど、心と身体のどちらもケアしたいときにも漢方薬は役立ちます。参考にしてみてください。

漢方から見る不安やストレス

漢方をはじめとする東洋医学の世界では、肉体と精神を一体として考えており、不安やストレスについて、臓器と結びつけて考えます。
感情と臓器を結びつける...いきなり難解な話になりそうで、漢方が難しいとか、わかりにくいと言われる理由の一つかもしれません。ここでは簡単に、不安やストレスは、主に心(心臓)や肝(肝臓)と関わりがあるということをご理解ください。不安があるということは、心臓の働きが不安定になっていて、ストレスをため込んでいる状態では肝臓が正常に働いていないというイメージです。

例えば、狂乱している状態は「心臓が暴れすぎてるなぁ」とか、焦燥感があったりすると「心臓が消耗してるなぁ」とか、ストレスのたまっている状態ですと、「肝臓が気が発散できずに、ため込んでいるなぁ」と考えます。
このような場合、暴れすぎているところは落ち着かせてあげて、消耗してるところは回復させてあげて、たまってるところは発散させてあげるというケアをします。この辺りの東洋医学の独特のメカニズムは漢方の勉強には必要ですが、みなさんは何となくわかった気になって読み進めてください(笑)
※ "気"については前回の記事で少し触れていますので参考にしてください。

漢方とお香の利用

人類が香りと出会ったのは、火を使うようになったことからと言われていて、火を起こしていた時に、薪の中にいい香りのする木があることに気がついたようです。同じく、漢方薬も初めは身の回りにある植物を食べたり、塗ったりしていたところから、薬効を発見しています。

想像するに、その昔は病気の原因など現在のように判明することは難しかったはずですから、何か病気やよくない事態が起こると、祟りとか呪いとか、悪魔の仕業だとか考えていたかもしれません。それでも、人類はどうにかして生き延びようと、植物や動物の骨などを身に纏ったり、煙を浴びて浄化したり、お祈りを捧げるみたいなことをしてきたのではないでしょうか。

日本へは漢方も香木も5〜6世紀に仏教などと同じ頃に伝わり、漢方は和の医療として発展し、有効な手段が現在まで伝えられ、科学によってエビデンスが証明されつつあります。

さて、次に漢方薬とお香に使われる天然材料の共通点ですが、ここを見ていくと、お香やアロマを焚くことで、リラックスしたり、心身にどのような影響があるか分かります。

落ち着く生薬の働き

漢方薬で、不安やストレスに対応する場合、主に、"行気薬(こうきやく)"や、"開竅薬(かいきょうやく)"、"安神薬(あんしんやく)"と呼ばれる薬を使います。それぞれ、気を巡らせる行気薬、体の竅(穴)を開いてたまったものを解放する開竅薬、精神を安定させる安神薬という分類です。
漢方薬の代表例は後ほどご紹介しますが、お香と共通する生薬は、主に行気薬と開竅薬に分類され、お香を焚くとリフレッシュしたり、リラックスする理由が見えてきました。漢方薬を服用する際は、味や香りも効能の一つと言われ、アロマテラピーと同じように、成分が鼻から脳や肺に流れ、血液を通して全身へ届きます。

代表的な生薬

不安やストレスによく使う代表的な生薬をいくつかご紹介します。
※ "生薬"と"漢方薬"の違いは、生薬は単独のものを指し、漢方薬は生薬を2種類以上組み合わせてできた処方のことです。

沈香(じんこう)
香木と呼ばれる、樹脂が沈着した木材で、中には国宝になるような貴重なものもあります。漢方では、気を巡らせる薬として用いられ、鎮静作用により神経の緊張を和らげます。

白檀(びゃくだん)
沈香と同じく香木の一種で、気を巡らせる薬として用いられます。揃って、「行気の佳品」「行気の要薬」と呼ばれています。どちらもお線香やお香に使われている代表的な香原料です。

麝香(じゃこう)
ジャコウジカ(鹿)の雄の分泌物を乾燥させたもので、独特の香りを放ち、いわゆるフェロモンの一種とも考えられています。ムスクとも呼ばれ、香水の原料にもなっています。漢方では、開竅薬や行気薬として、気を巡らせる働きや鎮静作用があり、意識障害や不安、ストレスなどに効果的です。とても貴重な動物、生薬であり、ワシントン条約で商業取引が禁止されています。

龍脳(りゅうのう)
リュウノウジュという木の樹脂で、開竅作用があり、ツンとした刺激のある香りで、意識をはっきりさせる働きがあり、集中力の改善にも使われます。

その他にも乳香(にゅうこう)、安息香(あんそくこう)、丁子(ちょうじ)、大茴香(だいういきょう)、桂皮(けいひ)、鬱金(うこん)などがあり、これらは香原料としても共通する生薬で、気を巡らせる作用や、鎮静作用があるものが多いことがわかります。また、香原料としては使われませんが、漢方薬として使われる代表的な生薬で以下のものがあります。

羚羊角(れいようかく)
ウシ科の動物の角を使った生薬で、鎮静作用があり、頭がもやもやしたり、整理ができないとき、考え事や仕事で頭がいっぱいのときなどに、使うとすっきりします。羚羊角も貴重な生薬のため、ワシントン条約で商業取引が禁止されています。

牛黄(ごおう)
牛の胆石を使った生薬で、牛1,000〜1,500頭に1頭の割合で見つかる希少で高価な生薬です。開竅薬として、鎮静作用や心臓の働きを助ける作用を持っています。近年、価格が急激に高騰しているため、大事に使いたい生薬の一つです。

不安やストレスに役立つ漢方薬

次によく使われる代表的な漢方薬を簡単にご紹介します。ご紹介するのはほんの一部です。また、言葉にしても区別が難しかったり、自分にどれが合うのか、どれもあてはまりそうでわかりづらいと思います。服用される場合は、生薬も漢方薬もご自身に合うものを選ぶ必要があります。漢方を専門にしている薬局・薬店、病院などへご相談ください。

帰脾湯(きひとう)
ショックなことがあったり、心も体も疲れて、不眠や食欲低下、消化器機能の低下があるときにおすすめです。イライラやのぼせが強い方は加味帰脾湯(かみきひとう)を使います。

逍遥散(しょうようさん)
ストレスを感じやすい方、血の巡りの悪い方(婦人家系など)におすすめの漢方薬です。「逍遥」とは"ぶらぶら歩く"という意味があり、散歩のように気晴らししながら、代謝をよくするようなイメージの漢方薬です。イライラやのぼせが強い方は加味逍遥散(かみしょうようさん)を使われるケースが多いです。

抑肝散(よくかんさん)
考えすぎたり、イライラしやすく、眠りづらい時におすすめです。お子さまの夜尿症や感情が高ぶりやすいときにも効果的です。

甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)
ヒステリー症状や焦燥感、憂うつ感のあるようなときに、ほっと落ち着く甘みのある漢方薬です。

酸棗仁湯(さんそうにんとう)
焦燥感、手足が定まらない、疲れすぎて眠れないなど、心も体も何だか落ち着かないようなときにおすすめです。

日水清心丸(にっすいせいしんがん)
牛黄、羚羊角、龍脳などが配合され、金箔に包まれた球体の漢方薬です。心や身体が疲れてしまったとき、頭がモヤモヤしたり、思考が整理できないときなどにおすすめです。

救心感應丸 氣(きゅうしんかんのうがんき)
麝香、牛黄、羚羊角、沈香、龍脳が配合された小さい粒状の漢方薬です。テレビCMなどでも有名な"救心"の仲間ですが、不安やストレス、人前で緊張しやすいなどのお悩みがある方は感應丸がおすすめです。

敬震丹(けいしんたん)
江戸時代より続く、徳島の製薬会社が作っている内容成分がお香に非常に近い漢方薬で、麝香、龍脳、沈香、桂皮、丁子、甘松(かんしょう)、木香(もっこう)といった香原料と重なるものに、香附子(こうぶし)や牛黄など行気薬と開竅薬が多く含まれています。

お茶やお香

暮らし中に気軽に取り入れるには、まずはお茶やお香という方法があります。お茶では、行気薬や安神薬としても使われる"みかんの皮"、"ナツメ"、"サフラン"などをブレンドした、「ぐるぐる茶」「和漢のチャイ」などがあります。香木やお線香に関しては、一緒にトークイベントを行った山田松香木店さんが専門ですので、お問い合わせしてみてください。どちらも医薬品ではないので、効能効果があるということではないのですが、リラックスするためのアイテムとしてご活用ください。

お香のお問い合せ
山田松香木店 https://www.yamadamatsu.co.jp/

漢方薬、お茶のお問い合せ
杉本薬局 http://sugimoto-ph.com/

お茶のお問合せ
eatrip soil Instagram : @eatripsoil

次回は

次回は、漢方のお酒としてご存知の方も多い「薬用養命酒」について書いてみたいと思っています。
ご拝読ありがとうございました。

Kakuro


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