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本とコーヒーについて語るときに我々の語ること

初読
なにがブレンドされているか判らないブレンドコーヒーをカウンターで受け取り、砂糖とミルクを手に席に着く。
スティックの砂糖は半分だけ、ミルクは全てを入れてスプーンでかき混ぜる。
コーヒーのやさしく甘い香りを鼻腔を受け止め、カップに口を付ける前に文庫のページをめくりはじめる。
ウィリアム・L・スタルの序文を読み始め、〝カーヴァー・カントリーへようこそ〟という締めの一文でようやく僕はコーヒーに口をつける。
〝私は友達のリタの家でコーヒーを飲み、煙草を吸いながら、彼女にこの話をしている。〟と始まる『でぶ』を読み始め、あっという間に『サマー・スティールヘッド(夏じにます)』に辿り着き、思い出したようにコーヒーに口をつける。

同じ本の何度目かの読書
 フィルターをセットしたドリッパーに、挽いたグアテマラを計量スプーンで二杯。沸騰した湯をほんのすこし冷まし、ドリッパーに〝の〟の字を書きながら細くゆっくりと湯を注ぐ。挽いた粉に湯が染み入る心地よい音に耳を傾けると粉はふっくらと膨らみ甘い匂いを強めた。
 黒々と輝くコーヒーに満たされたカップと数個のチョコを手に自宅ソファに腰を下ろす。淹れたてのコーヒーに口をつける前に文庫のページをめくりはじめる。ウィリアム・L・スタルの序文はすっ飛ばし、〝私は友達のリタの家でコーヒーを飲み・・・〟の『でぶ』を読み始める。僕はチョコを口に放り込み、軽く口の中で溶かして飲み込んでから、コーヒーに口をつける。『サマー・スティールヘッド』に辿り着くと、すでカップは空になっている。二杯目のコーヒーを淹れてソファに戻る。

 思春期の少年の青臭い話である。フライロッド(毛鉤竿)と書いてある割に、少年は餌を付けて釣りをしていたりして、道具を上手く使用出来ないという思春期の性衝動のメタファーなのだなフムフムとチョコを口に放り込みコーヒーをまた一口。

 『足もとに流れる深い川』まで読み進むとコーヒーは三杯目に突入している。死体を発見しながらも放っておいて釣りを愉しんでしまうのは、どうだろうか。釣り人ならやってしまうかも。と思いながら、僕はまたチョコを頬張りコーヒーに口をつけた。


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Carver’s Dozen レイモンド・カーヴァー傑作選
レイモンド・カーヴァー/村上春樹編訳 
中公文庫 
731円 ISBN:978-4-12-202957-6

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